米国経済は“軟着陸”する? 懸念材料に消費の二極化 岩田太郎
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米国経済は下期、急速な景気後退こそ回避されるとの見方が大勢だが、一部の指標には「黄信号」もともる。
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「FRB(連邦準備制度理事会)のスタッフは、もはや景気後退(リセッション)を予測していない」。パウエル議長は、7月26日の連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で自信を示した。この日のFOMCは、主要政策金利の0.25%引き上げを決定。政策金利の誘導目標は5.25〜5.5%となり、2001年以来、約22年ぶりの高水準となった(図)。
急激なインフレ進展で米国経済は23年下期には、リセッション入りするのではないかとの見方が出ていたが、各経済指標を分析する限りではパウエル氏の指摘通りにみえる。ニューヨーク市立大学のポール・クルーグマン教授(ノーベル経済学賞受賞)も、インフレと失業率で貧困を計測する悲惨指数(ミザリー指数)が「バイデン大統領就任時のレベルまで低下している」とし、「米経済は不況に突入しなかった」と指摘する。リセッションなしに、景気の大幅な冷え込みを回避する「軟着陸(ソフトランディング)」が実現しつつあるとの見方が支配的だ。
自動車や家具が伸びる
その根拠としてまず挙げられるのが、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)の底堅さだ。22年3月以降、計5ポイントの急速な利上げが実施されたにもかかわらず、23年1〜3月期の米国内総生産(GDP)の確定値は0.7ポイント上方修正され、前年同期比2%の伸びを記録した。4〜6月(速報値)は2.4%の成長で、引き続き強い。
6月の失業率は3.6%で、22年2月以降は3%台と過去半世紀で最低レベルを維持する一方、インフレ調整後の実質平均時給は26カ月ぶりに前年同月を上回った。単月だが、賃金上昇が物価高騰のペースに追い付かず、労働者の実質収入が低下していた状態が逆転した。
GDPの7割を占める消費に関しても、6月の小売売上高が前年同月比で0.2%上昇(速報値)した。市場予想の0.5%を下回ったものの、自動車や家具などの高額商品が伸びた。
米地銀コマーシャル・バンクのチーフエコノミストであるビル・アダムズ氏は「高所得層がサービスや旅行などで引き続き力強く消費しており、全体をけん引している」と分析する。米経済専門局CNBCによると、年収10万ドル以上の高所得者は、消費者全体の3分の1にとどまる一方で、消費額全体の4分の3を生み出しており、この層が引き続き、米国経済のエンジン役を担っている。
加えて、米調査企業コンファレンスボードが発表した6月の消費者信頼感指数は109.7と、前月から7.2ポイントも上昇し、約1年半ぶりの高水準を記録。同社は、「インフレ率の低下に対する期待が消費意欲を押し上げている」と見る。
一方、リモートワークの拡大によりオフィスの価値が下がる中、米商業不動産関連の…
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週刊エコノミスト
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