アップルが金融制覇に王手 “スマホ経済圏”フル活用 岩田太郎
有料記事
アップルはスマホから金融サービスに入り込み、いまや世界最大のカード会社ビザに迫ろうとしている。
>>特集「埋込型金融の衝撃」はこちら
米IT大手アップルの金融分野進出が加速している。2014年に非接触型デジタル決済のアップルペイを立ち上げて以降、過去10年ほどで個人間の送金・入金取り扱いや、大手銀行との提携によるクレジットカード発行、普通預金口座の提供、そして分割後払いと、サービスを拡大してきた。
時間をかけ、しかも埋込型金融の裏方に徹したことで、目立たない形で巨大な勢力に成長したことは特筆される。
たとえばアップルペイは21年に、全世界における商品・サービス決済の年間取扱額が6兆ドル(約878兆円)を超え、競合で4兆8000億ドル(約702兆円)を処理するクレジットカード決済大手の米マスターカードを抜き去り、10兆ドル(約1460兆円)を取り扱う同業のビザに迫りつつある(図)。
全世界で現役20億台以上のiPhone(アイフォーン)など自社デバイスが稼働する中、アップルの金融事業は戦略的展開のもとで「サービスとしての銀行(BaaS)」の巨人に成長し、同社の将来の重要な収益源になる可能性を秘めている。
周到な準備
アップルの金融への参入は12年に、看板商品のスマートフォンであるiPhone上に「ウォレット」アプリを立ち上げたところから始まる。
ウォレットは現金の代わりに、電子化された現金をはじめ、同じくデジタル化されたデビットカードやクレジットカード、さらには電子化された身分証明書や運転免許証まで収納できる、文字通りの電子財布である。ウォレットがなくては送金も入金も決済もできないため、地味な存在ではあるが、すべての金融サービスの器となる重要なものだ。
この電子財布には、銀行が発行したデビットカードやクレジットカードをデジタル化された方法で登録して、非接触式の支払いに使えるようになっている。それが、アップルペイだ。
店舗やオンラインでの支払いの際に、実物のカードの代わりにiPhone端末や身に着けたアップルウオッチがカード代わりとなり、画面あるいはボタンを押す確認のタップで決済が完了する。
このプロセスは、日本で普及したQRコード決済などと比較して、支払い方法を店員に告げる必要もなく、アプリを立ち上げてコードを読み取る手間もないため、利便性が高い。アップルペイの取扱額が急成長した大きな理由のひとつである。
アップルは自社デバイスを電子財布に仕立て上げ、そこに収納されたカードによる決済をデジタル化することで、銀行や決済企業にとっての玄関口のような役割を担い始めた。加え…
残り1188文字(全文2288文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める