経済・企業

生物多様性・自然資本を投融資の判断材料に 太田珠美

 急速に浸透するネーチャーポジティブの概念。金融機関や投資家は一斉に対応に乗り出した。

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 生物多様性の損失を食い止め、回復軌道に乗せるネーチャーポジティブ(自然再興)の実現に向け、それと整合的な経済や金融の在り方が検討されている。気候変動問題に対する金融機関や投資家の取り組みに関しては、2015年のパリ協定の採択やTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の設立を契機に、金融機関や投資家が投融資先の気候変動の取り組みを従来以上に意識するようになった。今では多くの金融機関や投資家がカーボンニュートラルを見据え、投融資ポートフォリオの温室効果ガス(GHG)排出量削減に向けた目標や計画を策定・公表している。

「気候変動」追うように

 生物多様性の損失に関しては、21年にTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)が設立され、22年に生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)第2部で昆明・モントリオール生物多様性枠組みが採択されている。

 表1は気候変動を取り巻く動きと、「生物多様性・自然資本」の動きを比較したものだ。生物多様性・自然資本に関する取り組みが、気候変動がたどったプロセスを踏襲していることがわかる。

 なお、自然資本とは植物や動物、土壌、鉱物などを指し、人々が自然資本から得ている恩恵(食料や木材などの原材料や、花粉の媒介や気候の調整機能など)を生態系サービスという。生物多様性は自然資本の健全性と安定性を保つための重要な要素であり、生物多様性は自然資本の一部であるとともに生態系サービスを下支えするものとされる。こうした流れを踏まえると、金融機関や投資家が投融資ポートフォリオのネーチャーポジティブを目指す(生物多様性の保全やそれに深く関連する自然資本の保全について評価する)動きが進んでいくことが予想される。

 投融資における生物多様性・自然資本への配慮はこれまでも行われてきた。金融機関がプロジェクト向け投融資を実施する際、そのプロジェクトが自然環境や地域社会に与える影響に十分配慮して実施されることを確認する自主的なガイドラインとして赤道原則(エクエーター原則)がある。日本国内でも複数の金融機関が採択している。これに加え、投融資方針にラムサール条約指定湿地への負の影響を与える投融資や、ワシントン条約に違反する事業への投融資は実施しないこと、パーム油や木材・紙パルプ事業に関連する投融資において、生物多様性に配慮することを掲げるケースも見られる。

 このように、生物多様性・自然資本に対する影響が特に大きいプロジェクトや産業に対しては既に一定の配慮がなされてきたが、今後は投融資ポートフォリオ全体を対象に、生物多様性・自然資本に配慮し、関連するリスクと機会の評価を投融資に組み込んでいくことが求められる。

 このプロセスを、投資プロセスへの組み込みが進む気候変動に倣えば、①生物多様性・自然資本が企業のビジネスに影響を与える経路を理解する▽②生物多様性・自然資本に影響を与える業種および生物多様性・自然資本の損失によって影響を受ける業種…

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