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バイデノミクス“成功”の陰で対中強攻策が招いた貿易の停滞 高橋尚太郎
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インフレ抑制法やCHIPS法により国内投資を呼び込んだ米バイデン政権。国内景気も堅調に推移するが……。
米国第一の保護主義と対中リスクに要注意
米国経済は、米連邦準備制度理事会(FRB)による大幅な金融引き締めの逆風を受けているにもかかわらず、足元では底堅く推移している。これは、バイデン政権の経済政策「バイデノミクス」が追い風となっていると考えられる。バイデン政権は昨年8月には環境関連の大型法案であるインフレ抑制法、半導体産業を支援するCHIPS法を立て続けに成立させていた。
米国の2023年4~6月期の実質GDP(国内総生産)では、企業の設備投資が前期比年率6.1%増と堅調で、工場建設などの構造物投資に至っては11.2%増と大幅に増加した。バイデノミクスを当て込んで昨年以降、製造業の建設投資が徐々に増加する中、とりわけコンピューター、電気・電子分野の建設投資は昨年8月以降に急増しており、足元でもその勢いが衰えていない(図1)。
バイデノミクスの柱の一つであるインフレ抑制法は、増税など歳入増を通じて需要を下押しし、高インフレの抑制を図るという意味で名づけられた。また、歳出面では気候変動対策に関して最大規模となる4000億ドル弱(約58兆円弱)と見積もられる措置を盛り込んでおり、①再生可能エネルギー導入の後押しや建物などのエネルギー効率の改善、②EV(電気自動車)技術導入の促進──など、長期の投資促進を狙っている。
もう一方のCHIPS法は、国家安全保障にとって重要性の高い半導体産業を促進する目的で、米国内の半導体産業に対して500億ドル(約7兆2500億円)程度もの補助金を投じることを決定した。インテル、マイクロンなど米国企業はもちろん、TSMCなどの台湾企業、サムスン電子などの韓国企業は、数十~数百億ドルの投資をCHIPS法成立の前後で発表しており、補助金を受けることを前提としている可能性が高い。
今後は金融引き締めの効果が強まり、企業の設備投資はいったん手控えられると考えられる。ただ、伊藤忠総研では、24年以降には利下げが開始されることで金融環境が改善し、インフレ鈍化が家計の負担を和らげることで景気は回復に向かうと予想している。需要の回復期には、現在までに建設された工場をベースに機械投資や研究開発投資などが進み、景気回復に弾みをつけることになろう。
貿易全体には停滞感
このように、民間の投資需要を喚起し、大きな成功を収めているバイデン政権の経済政策だが、米経済の先行きにとって無視できないリスクも抱える。まず、こうした自国に投資を呼び込む経済政策の成功により、バイデン政権の自由貿易に対する後ろ向きな姿勢が強まる可能性が考えられる。自国第一の保護主義的な動きは、長期的にみて生産性の低下につながる懸念がある。
さらに、米国の経済政策が、安全保障における対中強硬姿…
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週刊エコノミスト
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