国際・政治

6カ国新加盟で高まるBRICSの地政学リスク 藤和彦

BRICS首脳会議に出席した(左から)ブラジルのルラ大統領、中国の習近平国家主席、南アフリカのラマポーザ大統領、インドのモディ首相、ロシアのラブロフ外相 Bloomberg
BRICS首脳会議に出席した(左から)ブラジルのルラ大統領、中国の習近平国家主席、南アフリカのラマポーザ大統領、インドのモディ首相、ロシアのラブロフ外相 Bloomberg

 BRICSの拡大で影響力は強まる一方、イラン加盟による対米関係の一段の悪化や、中印の主導権争いが地政学リスクを高める懸念が残る。

高まる経済、エネルギーの存在感

 ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ(BRICS)の5カ国は8月22~24日、南アフリカのヨハネスブルクで15回目の首脳会談を開催した。ウクライナ戦争後、国際社会でグローバルサウス(GS)の存在感が高まっており、世界の関心が集まった。

 GSとは、アフリカやアジア、南アメリカなど南半球に多い発展途上国を総称する言葉だ。はっきりした定義はないが、その中にあって注目されているのが、GSを自らの陣営に取り込もうとするBRICSの積極的な働きかけだ。

 BRICSは21世紀に入り、広大な国土や多くの人口、豊かな天然資源を武器に急成長を遂げてきた。5カ国合計の国内総生産(GDP、名目、ドル建て)が世界に占めるシェアは、2000年の8%から22年には26%に拡大。この間、主要7カ国(G7)の同シェアは65%から44%に低下している(図)。

 国際政治・経済においてG7を凌駕(りょうが)する影響力の獲得を目指すBRICS。今回の首脳会談の最大のテーマは加盟国の拡大だった。23カ国・地域が加盟申請をしている中、イラン、サウジアラビア、エジプト、アルゼンチン、アラブ首長国連邦(UAE)、エチオピアが来年1月からの加盟を認められた。

 新加盟は10年の南アフリカの加盟以来となる。加盟国は追加されるものの、BRICSの名称はそのまま維持される見通しだ。ロイターの報道によると、ブラジルのルラ大統領は拡大したBRICSのGDPシェアは37%、世界人口の割合は46%を占めると発言した。GDPシェアは購買力平価ベースとみられる。

 6カ国が選ばれた理由は次のように説明されている。主催国である南アフリカが重視しているアフリカ地域から選ばれた人口1億2000万人のエチオピアには、アフリカ連合(アフリカの55カ国・地域が加盟する世界最大級の地域機関)の本部もある。エジプトも約1億1000万人の人口を擁する大国だ。

 中南米地域からはアルゼンチンが選ばれた。盟友関係にあるアルゼンチンのフェルナンデス大統領とともにBRICSにおける中南米地域の存在感を高めたいとするルラ氏の意向が働いたとされる。

原油生産は世界の4割超

 筆者が注目したのは中東地域から三つの大産油国が選ばれたことだ。ロシアに加え、サウジアラビア、UAE、イランが加わったことで、世界の原油生産に占めるBRICSのシェアは20%から41%に急上昇する(表)。BRICSは原油生産の面でも存在感を示すようになるが、米国と激しく対立するイランが選ばれたことで、対米関係が一段と厳しくなりそうだ。

 制裁の影響で割安となっているイラン産原油の輸入を拡大している中国や、イラン産ドローンをウクライナ戦…

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週刊エコノミスト

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