経済・企業

巨額債務国の日本がインフレで“財政危機”に陥る恐れについて考える 丹治倫敦

日銀も物価の上振れリスクを意識し始めている
日銀も物価の上振れリスクを意識し始めている

 過大な借金を抱える国が、資金調達を日銀に依存するという極めてリスクの高い経済政策をとり続けている。財政危機的スパイラルに陥るリスクを検証する。

>>特集「金利ある世界」はこちら

 日本は世界有数の債務国であり、債務のGDP(国内総生産)比率でいえば過去に債務危機があったイタリアやギリシャを大きく上回っている(図1)。それと同時に、中央銀行である日銀が大量に国債を購入している。これは国の借金のファイナンス(穴埋め)を通貨発行権のある(お金を刷れる)日銀に頼っていることに他ならない(実質的な財政ファイナンス)。

 一般的に、このような経済政策はリスクが大きいといわれる。それは図2に示したように、一般的には「通貨危機」や「財政危機」といわれるような、インフレや通貨安、金利上昇と財政悪化がスパイラル的に発生する状況に陥るリスクが大きいからである。

 一方で、今のところ日本ではその手の危機は発生していない。それは一般的に、次に述べるような二つの「防波堤」が存在するからといわれている。

 ①日本ではインフレが極めて発生しづらい構造であること(そのため、半永久的に国債買い入れを含む金融緩和を継続できること)、②日本は経常黒字国(国全体で見て収入が支出を上回っている)ため、民間には潤沢な資金余剰が存在し、それが国債消化の原資となること。②についてはよく、「家庭内で親が稼ぎのいい子供に借金を重ねても、その家庭は破産しない」という例でたとえられる。

 ところが、足元は少なくとも一時的にはインフレ(物価上昇)率が2%を超えている状態であり、日銀も物価の上振れリスクを意識し始めるなど、第1の防波堤は揺らぎ始めている。このような中、改めて図2に示したような危機が発生するリスクはないのか、十分に検証しておくことは必要だろう。誤解がないよういっておくと、筆者は現状でこのような危機が高い確度で起こると考えているわけではない。ただ、そのリスクは現状どの程度か、発生するとすれば、どんな条件なのか、明確にしておくことは有効と考えている。

経常黒字頼りに

 仮に第1の防波堤が揺らいだ場合、すなわちインフレが上振れて日銀が保有国債の削減を含む金融引き締めに動かざるを得ない場合、カギを握るのは第2の防波堤になる。この点を、もう少し詳しく説明しよう。

 政府が財政拡張政策を行うことは、何らかの形で政府の資金が民間に移転するということである。例えば、政府が1兆円国債を発行して財政政策を行う場合、公共工事であれば工事を行った建設会社に、1兆円が支払われることになる。その後、その会社が資金を使用すれば当然資金の保有主体も変化するが、前述のように日本は経常黒字国であるため、海外には流出せず国内民間部門にとどまるイメージとなる。

 そして、間接金融主体の日本では、民間資金の多くは銀行預金という形で保有される。すなわち、政府が財政拡張を行えば、その分銀行預金が増加することになる。預金が増加した場合、その資金を民間に貸し出して利ざやを得るのが銀行の伝統的なビジネスモデルだが、実際には世の中の資金調達ニーズが都合よく増加するわけではないため、貸し出しは急激には増加しづらい。そのため、代わりに国債を購入して運用するニーズが発生することになる。

 実際、「過去の国債発行額」と「銀行の預金額」「預金から貸し出しを引いた額(預貸ギャップ)」は、基本的には連動してきた(図3)。日銀が国債を大量に購入し始める前は、これが増え続ける国債の受け皿となっていたのである(図4)。

 よって、日銀が仮に国債保有額を削減していった場合には、再び日銀に代…

残り2272文字(全文3772文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

4月30日・5月7日合併号

崖っぷち中国14 今年は3%成長も。コロナ失政と産業高度化に失敗した習近平■柯隆17 米中スマホ競争 アップル販売24%減 ファーウェイがシェア逆転■高口康太18 習近平体制 「経済司令塔」不在の危うさ 側近は忖度と忠誠合戦に終始■斎藤尚登20 国潮熱 コスメやスマホの国産品販売増 排外主義を強め「 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事