経済・企業

台風7号に襲われたお盆休みの新幹線“計画運休”から教訓をくみ取る 梅原淳

大雨の影響で運転見合わせとなり混雑する東海道新幹線改札=JR東京駅で2023年8月16日
大雨の影響で運転見合わせとなり混雑する東海道新幹線改札=JR東京駅で2023年8月16日

 予想される自然災害から利用者の安全を守ろうと、鉄道の「計画運休」が近年、増えている。鉄道ジャーナリストの梅原淳氏が専門家の立場から考える。

大混乱の教訓をどう生かすか

 今年のお盆休みは、台風7号が8月15日に近畿地方に上陸し、近畿、東海、中国地方を中心に大雨や暴風に見舞われた。問われたのは、台風の進路に当たる地域で鉄道をあらかじめ運休にする「計画運休」のあり方だ。

 しかもお盆休みは、通常より多くの人が鉄道で移動するため、運行に関してどのような決断を下すのか、一層神経を使う。以下では東海道・山陽新幹線の状況がどうであったのかを振り返り、計画運休を考える。

2日前に運休を決める

 東海道・山陽新幹線のうち、台風7号の進路に当たる名古屋─岡山間について、JR東海、JR西日本の両社は、台風の直撃による被害を避けるため8月15日の同区間を走る全列車の運休を、2日前の8月13日の時点で明らかにした。

 ほぼ予報通りの進路をたどった台風7号の被害は甚大で、鳥取県内では大雨特別警報が発表されて記録的な豪雨となった。幸いにも事前に運休とした名古屋─岡山間では大きな被害は出なかった。これを受けて8月15日夕方の時点で、JR東海、JR西日本両社は翌8月16日の始発からほぼ平常通りの運転ができそうだと発表した。ただ、状況次第では急きょ列車の運転を見合わせる可能性もあると付け加えている。

 Uターンラッシュのピークが1日延びたこともあり、8月16日の東海道新幹線は、朝一番の列車から混雑した。ところが、台風7号の進路から大きく離れた静岡県内で線状降水帯が発生する大雨に見舞われ、東海道新幹線で午前8時30分ごろから約6時間にわたって列車の運転を見合わせる事態に陥ったのだ。

 一時は山陽新幹線を含めた東京─博多間で列車の運転が不可能となり、運転再開後も最大で列車の遅れは10時間近くになるなど混乱した。結果的に、約30万5000人の乗客に影響が及ぶことになった。

 東海道新幹線では、8月16日の列車がすべて運転を終えたのは日付が変わった17日の午前6時30分ごろであった。通常、東海道新幹線の朝一番の列車は6時ちょうどに各拠点駅を出発するが、前日のダイヤの乱れが続いていたために、17日も混乱は続いた。

 しかし、午後になると列車の遅れは徐々に小さくなり、夕方にはほぼ定刻通りの運転となった。8月18日は朝一番の列車からダイヤ通りに運転され、東海道新幹線は8月14日以来4日ぶりに正常な姿を取り戻すことができた。

 以上が、お盆休み中の一連の出来事である。

当初は貨物列車の運用

 あらかじめ列車の一部またはすべてを運転しないようにする措置を一般に「計画運休」という。JRの前身である国鉄の内部では、昭和30年代の初めごろにはすでに使われていた記録が残る用語だ。

 当時は、特に貨物列車を対象としていたのが特徴だ。冬季に豪雪が予想される場合をはじめ、旅客の繁忙期に旅客列車を増発したい、景気の変動などで輸送需要が落ち込んだ──などの理由で、まとまった数の貨物列車の運転を取りやめたり、運転区間を変更したりする取り組みであったという。

 1970年代の終わりには、旅客でも、特急列車などが事前に運転見合わせになるものが現れ、こちらも計画運休の対象となった。さらに21世紀に入ると、自然災害の頻度が高まり、大雨や暴風などの被害が予想されると、鉄道会社が大々的に事前告知を行って列車の運転を取りやめることが計画運休と呼ばれるようになった。

 一般に、計画運休が広く知られるようになったきっかけは、01年8月21日に、東海道新幹線であらかじめ告知をした運休だ。紀伊半島に上陸した台風11号の影響を考慮し、同日午前6時以降一部の列車の運休を事前に決定し、22日には「のぞみ」は全列車運休して1時間3本程度各駅停車の列車だけを運転した。

 これは、前年の00年9月の出来事が教訓になっている。東海豪雨で東海道新幹線の計74本の列車が立ち往生して約5万人の乗客が車内で夜を明かしたうえ、復旧にも手間取った。この苦い経験を基に採用された。01年の計画運休は功を奏し、台風11号が通過した8月22日午後には平常運転に戻った。

 自然災害が予想されるなか、無理に列車を走らせることは危険で、しかも、列車が駅間で長時間立ち往生すると乗客を救出しなければなら…

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週刊エコノミスト

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