大企業の半数が重要地域に資産保有 「生物多様性含む自然資本」の回復を 大町興二
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企業経営などを巡り、「ネーチャーポジティブ」という言葉が急速に浸透している。どのような概念で、何を目指し、企業活動をどう変えていこうとしているのか。
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「ネーチャーポジティブ(自然再興)」とは、企業の経済活動によって生じる自然環境への負の影響を抑え、「生物多様性を含めた自然資本を回復させる」ことを目指す新たな概念である。「生物の多様性を維持する」という従来の発想から大きく踏み込んだ内容で、企業経営におけるキーワードとして脚光を浴びている。
ダボス会議を主催するスイスのシンクタンク「世界経済フォーラム」(WEF)が今年1月に発表した、世界が直面するリスクを分析した「グローバルリスク報告書」が関心を集めた。学術界、企業、政府などで指導的立場にある1200人超の専門家に、今後10年で最も深刻化すると想定されるリスクのトップ10を聞いたところ、気候変動や自然災害、異常気象など、気候関連が上位3位を占めた。生物多様性の喪失と生態系の崩壊は、短期的(今後2年間)に差し迫った懸念とは位置づけられなかったが、深刻度の認識は加速し、10年という時間軸では4番目に深刻なものと位置づけられた。
「森林リスク商品」に規制
生物多様性の喪失と生態系の崩壊に対する世界の目は厳しい。
生物多様性を巡る議論で、特に気候変動との関連性が指摘されてきたのが森林である。森林は二酸化炭素(CO₂)の吸収源・排出源であると同時に、陸上の生物の約8割が生息する場所である。木材や紙などの林産品のみならず、森林を切り開いて農地や放牧地にすることで生産された牛肉、パーム油、天然ゴム、大豆、カカオなどの農畜産物は「森林リスク・コモディティー(商品)」と呼ばれる。こうした製品を扱う企業に対し、厳しい規制がかけられるようになってきている。
EU(欧州連合)では森林破壊防止のための審査が義務化され、牛肉、カカオ、コーヒー、パーム油、ゴム、大豆、木材とその派生製品について、森林伐採や、森林を劣化させる影響を受けている土地に由来していないとの保証が求められるようになった。
実際、欧州のスーパーマーケットチェーンが「南米産の牛肉販売が5万ヘクタールの森林破壊を招いた」として訴訟を起こされたり、欧州の大手銀行グループが「アマゾンの森林伐採と人権侵害に責任があるとされる企業への融資に関する審査が不…
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週刊エコノミスト
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