日本の自動車産業は総力戦でEV制御ソフトを開発すべきだ 野辺継男
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EV(電気自動車)は既存のエンジン車と構造やビジネスモデルが根本的に異なる。日本ではその違いが認識されていないことが気がかりだ。
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電気自動車(EV)といえば、最近はバッテリーのみで動くバッテリーEV(BEV)と、ハイブリッド車(HV)を充電できるようにしたプラグイン・ハイブリッド車(PHV)の2種類を意味する。このEVが2023年上半期、世界の新車登録台数の15%(内訳はBEV10%、PHV5%)となった。裏を返せば、まだ市場のほとんど(85%)が内燃機関車(ガソリン車やディーゼル車)とHVという状況でもある。
日本車はほぼこの85%の市場に存在する。実は日本車はHVでは強いがPHVではそうでもない。国内で23年1月から8月の国内販売実績(軽を含む)でPHVはシェア1.3%でありBEVの2.3%よりも低い。一般的に商品は、国内で売れなければ海外でも売れない。トヨタ自動車でも米国で23年第1四半期の販売台数でPHVは1.6%に過ぎず、HVは24%を占め、内燃機関車と合わせると98%となる(図1)。他社では、PHVやBEVを持たない日系企業も多い。
EVはエネルギー革命
一方、世界では23年6月時点で、23カ国でBEVシェアが5%を超えている。米ブルームバーグは5%を重要な転換点とし、そこから4年で25%へと急増するとしている。図2は、横軸に各国でBEVが5%を超えてからたった年数、縦軸に23年第2四半期の国内BEVシェアをプロットしている。世界全体でBEVシェアが5%を超えたのは、21年第2四半期であり、そこから4年となる25年中盤には25%に達する可能性がある。PHVを加えた全EVが、全体の3分の1を超えてもおかしくない。
こうしたEVへの市場遷移に対して、日本車はいかに競争力を高め得るのか? 内燃機関から特にBEVへの転換は“エネルギー革命”の一環であると認識し、そこに競争力の源泉を見いだす必要がある。内燃機関では化石燃料を燃焼させ、20〜40%程度がクルマの運動エネルギーとして利用される。減速時も摩擦抵抗や熱で運動エネルギーが消耗されエネルギーを元に戻すことはできない。
それに対して、BEVでは可逆となり、その制御がエネルギー効率を高める。BEVは電気エネルギーを運動エネルギーに変えて加速し、その逆で減速する。減速の際に回収した電気エネルギーは電池に戻る。もちろん、その間ある比率でエネルギー損失は発生するが、走行環境や条件に合わせてエネルギー回収を効率化することで走行距離を伸ばすことができる。これがBEVの重要な競争要因の一つになっている。
そうしたエネルギー変換を制御するのは、ソフトウエアと半導体であることも重要だ。ソフトウエア開発のため、あらゆる場所で走る“自社の”クルマから大量のデータをクラウドに上げ、個人情報をはずした上で、「どのような環境をどのように走り抜けたか」という“走り方”を分析し、走行距離を正確に予測したり、伸ばしたり、更には運転支援や自動運転を行うソフトウエアが開発される。こうして生成したソフト…
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週刊エコノミスト
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