経済・企業

トヨタの本音「HVだけでシェアは維持できる」 池田直渡

2021年、EV350万台計画を発表したトヨタの豊田章男社長(当時) 筆者撮影
2021年、EV350万台計画を発表したトヨタの豊田章男社長(当時) 筆者撮影

 トヨタは電気自動車(EV)を売らなくても世界シェアを維持できる。HV中心の「フルラインアップ」は当然の帰結だ。

>>特集「EV戦争2023」はこちら

「中国、自動車輸出で日本を抜いて世界一へ」

 9月12日付の英紙『フィナンシャル・タイムズ』(電子版)は中国が今年輸出する自動車の台数が日本を上回るという見通しを報じた。根拠は米格付け会社ムーディーズのデータという。記事によれば、「ライバルより安価な中国製EVがとりわけ欧州で地位を固めつつある」ことが輸出増の一因だ。

 9月7日付の米紙『ニューヨーク・タイムズ』(同)はトヨタ自動車が「EVに苦戦」と伝えた。EVの世界販売台数は2022年、前年比70%近く増えて約770万台に上る中、「トヨタが販売した車のうちEVは1%に満たなかった」と問題視。中国で販売台数が急落し、米国でも販売シェアが微減したことを挙げた。4月16日付の英誌『エコノミスト』(同)の見出しはずばり、「日本が世界のEV競争に負けているわけ」だった。

 議論を進める前に自動車販売の現状を振り返っておこう。国際自動車工業連合会のデータによると、乗用車と商用車を合わせた世界販売台数は22年、8163万台に上った。一方、国際エネルギー機関(IEA)が今年4月に発表したリポートによれば、プラグインハイブリッド車(PHV)を除くEVの販売台数は22年に772万台。新車の販売に占める割合は9.5%と計算できる。

原材料のボトルネック

 今後はどうか。EVの販売台数は増え続けるという見方が大勢だ。IEAは三つのシナリオを示し、30年には最小値で3380万台、最大値でPHVを含めて7000万台以上とした。新車販売の30〜60%がEVになるという。

 IEAが提示するシナリオは幅がかなり大きい。需要増は見通せても、EVの増産には大きなボトルネックが立ちはだかるからだろう。最も深刻なボトルネックはEV用電池の原材料となる鉱物が特定の国に偏在し、不足することだ。

 偏在が最も深刻なのはコバルトだ。レアメタル(希少金属)の一種で、EV用電池の主流になっているリチウムイオン電池(LIB)の「正極」という部品の原料となる。米内務省地質調査所の報告書によれば、22年生産量の世界首位はコンゴ民主共和国。世界生産量の69%を占めたという。

 しかし、生産が持続可能かどうかは疑問だ。国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは「コンゴ民主共和国のコバルト鉱山では7歳の子どもまで非常に危険な生産作業に従事している」などと劣悪な人権状況を厳しく指摘してきた。日本の外務省も「武装勢力による文民の攻撃・殺害が頻発しており、治安の改善が引き続き課題となっている」とウェブサイトに記し、治安情勢を懸念する。

 LIBにはいくつかの種類があり、その中でも正極に「リン酸鉄リチウム」という物質を使うタイプはコバルトを使わない。しかし、同タイプの電池はクロムとコバルトという高価な原材料を使わないため低価格で作れる半面、体積当たりのエネルギー量が小さいため、航続距離は不利になる。EV用電池の決定打とするには今一歩の革新が待たれる。

 圧倒的に不足するとみられる鉱物の代表格はLIBの原料となるリチウムだ。米地質調査所のデータによれば、22年の世界埋蔵量は生産量の200年分もあるが、問題はそう簡単には増産できないことだ。リ…

残り1552文字(全文2952文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

5月14日・21日合併号

ストップ!人口半減16 「自立持続可能」は全国65自治体 個性伸ばす「開成町」「忍野村」■荒木涼子/村田晋一郎19 地方の活路 カギは「多極集住」と高品質観光業 「よそ者・若者・ばか者」を生かせ■冨山和彦20 「人口減」のウソを斬る 地方消失の真因は若年女性の流出■天野馨南子25 労働力不足 203 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事