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経済・企業 EV戦争2023

トヨタのEV挽回策 ソフトと製造のコスト競争力確立が急務 中西孝樹

 米テスラに加え、中国BYDが勢力を急拡大する中、トヨタが「史上最大の作戦」ともいえるEV挽回策に打って出た。

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 新型コロナウイルスの危機から抜け出した時、世界の自動車産業はこれまでとは全く違う競争ルールと、世代交代した競合と戦う戦国の時代が訪れていた。

 全く違う競争ルールとはEV(電気自動車)シフトとそれにひもづいた車両のソフトウエア化であり、世代交代した競合とは米テスラや中国BYDという自動車を原点に持たない新興勢力とそれに追随するあまたの中国メーカーである。テスラが先行し、そのビジネスモデルを踏襲した中国新興ブランドが追随、テスラ的な車を大衆車価格へ引き下げて世界に打って出ようとする中国メーカーが怒涛(どとう)のごとく後を追っている。

 EVでの競争力を高めるテスラやBYDにトヨタ自動車は本当に対抗できるのだろうか。トヨタの敗北は日本のものづくりの敗北にも等しい。負けることが許されないトヨタは完全に新しいアプローチでその勢力に対応すべく、バッテリーEV(BEV)の専任組織「BEVファクトリー」を4月に立ち上げた。EV戦争は勝敗を決する第2幕に突入したといえるだろう。

 EVシフトの勢いが衰えないのは、EVでしか乗り越えられない環境規制の強化に加え、EVならではの提供価値が需要を発掘しているためだ。環境規制を考えれば、世界のパワーポリティクスはEVを推進するルールメーキングを続けている。環境政策はエネルギーと国家経済安全保障と密接にリンクしている。

EVの価値は「サービス」

 EVならではの提供価値とは、モーターの走行性能に加えて、ソフトウエアが定義したサービス指向のクルマの体験価値がある。いわゆるソフトウエア・デファインド・ビークル(SDV、ソフトウエア定義車)への進化と、2025年ごろから生産が本格化する第3世代のEV(トヨタのBEVファクトリーが開発する車両が該当)の進化は完全にひもづけされている。SDVと呼ばれるデジタル対応車が次の勝敗を決する要素に台頭しているのである。

 もはやテスラは自動車メーカーとは思われず、巨大なエネルギーマネジメント会社に進化し始めている。3月のインベスターデイで発表された「マスタープラン3」にそのビジョンが明確に示された。それは50年までに地球の脱化石燃料を完了させるための、科学と数字で裏付けした地球を救うホワイトペーパーであった。

 テスラはこれまでも、太陽光発電で発電(=ソーラーシティー事業)、家庭用蓄電池で蓄電し(=パワーウオール事業)、EVで放電する(EV事業)のエコシステムを作り上げてきた。ここに再生可能エネルギーの開発と電気貯蔵を拡大し、ヒートポンプ(外部の空気や水の中にある熱を取り出し放出して温熱効果を生み出す暖房装置)を家庭や工場に展開することで、合計で80%近くの化石燃料のエネルギーを削減できると同社は主張する。

 発電、蓄電、放電の循環の中で、余剰となる電気をグリッド(送電網)へ売電するユーザーの経済的価値も生み出せる。テスラはこういった電気のデータを収集し、そこから生まれる新しい価値(電池性能の延長、中古EV価格の上昇、CO₂〈二酸化炭素〉クレジット)などをマネタイズする考えである。そこに「マスタープラン2」で積み残した自動運転技術の「FSD(フルセルフドライビング)」の完成を結合させる考えである。

 このエコシステムの実現には、もっと廉価なEVを世に出し普及を一気に高めることが必要だ。それに向けて次世代EVプラットフォームを全く新しい生産プロセスで製造し、3万ドルを切る夢のようなEVを25年初にも世界に投入する考えである。現在のトヨタの2倍の規模となる年間2000万台という異常なEV販売目標は実際本気なのである。

テスラ「異次元」の製造方式

 次世代EVプラットフォームは多くの変化が含まれる。車体・車両部品の統合を進め部品点数を大幅に圧縮、サプライヤー数も大幅に絞り込む考えだ。最大の変化点は、「パラレル・シリアル」と銘打った完全に新しい生産システムを25年ごろのメキシコ新工場から導入することだ。

 伝統的な自動車の生産方式はプレス→車体組み立て→塗装→最終組み立てと生産工程は1本の直線(シリアル)に進められる。この生産方式はフォードがT型モデルを発明した1908年から100年以上変わることのない自動車の基本的な製造方式だ。

 テスラの次世代プラットフォームでは、「ギガキャスト(大規模なアルミダイカスト)」で一体成形したフロントとリアと、プレスを中心に成形する2系統がサブラインで平行(パラレル)に進行し、最終組み付けを短い直線ライン(シリアル)で行う。これこそが「パラレル・シリアル」工程である(図1)。

 車両製造コストを50%削減し、2.5万ドルからの小型EV(世間では「モデル2」と呼ばれる)や次期「モデル3」の投入をもくろむ。こういった進化を絶え間なく粛々と続けてきたのがテスラである。100兆円以上の企業価値を手にしても、進化に向けてたゆまぬ努力を惜しまないハードワーカーだ。昔の米国のビッグ3のようになまけてくれない、日本車にとって最悪のライバルなのである。

 テスラの成功要因は、①エンジン、ディーラー、ティア1(メーカーに直接納入する1次サプライヤー)のレガシーを持たない、②次世代車に不可欠な技術を垂直統合し独自開発する能力を有する、③データを収集し、自動運転ソフトやエネルギーマネジメントなどマネタイズする基盤にある。要するに、変化へのスピードが速く、マネタイズにつながるデータプラットフォームを先に作り上げるところが強みだ。

 テスラは毎年ハードウエアをアップデートし設計変更を繰り返す。その度に部品の統合度が高まり、生産工程数とコストの削減を実現する。これは自動車産業のプラットフォームの既成概念を破壊し続けているといえる。伝統的な自動車産業においては、一度固めたプラットフォームはできるだけ長く使い続け、定められたインターフェースに沿ってサプライヤーが水平分業的に開発・製造を行い、スケールを確立してきた。この構造では設計変更は大ごととなり、テスラのようなスピードはまねできないのである。

中国のEVシフトは不可逆

 こういったテスラの提供価値や開発・製造方式をうまく取り入れ、SDVの提供価値をコピーして急速に進化しているのが中国自動車産業だ。「ゼロコロナ」政策による市場混乱が長期化し中国市場がどう変革しているか実態が見えづらかった。し…

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