デジタル式年遷宮のすすめ――全銀ネットシステムのトラブルに思う 寺野隆雄
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2023年10月10日全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)のシステム障害が発生し10月12日の復旧までに500万件以上の送金トラブルが発生した。「またか!」という感じではあるが、ICTシステムはトラブルからは免れない。一般に、システムは目に見えず、動き出したとたんに古くなる性質をもつ。もちろん、一度開発が済んだソフトウェアは劣化しない。劣化し変化するのは、ソフトウェアが稼働するハードウェアと世の中の仕組みならびに環境の変化である。
伝承されないノウハウ
今回トラブルを起こしたような基幹業務についていえば、その仕様は基本的に変化しない。だからこそ、50年間も使い続けられたのである。ただし、ソフトの発注者や管理者は、ICTシステムが一度動き出すとそれでOKと考え、あとはメンテナンスの問題と信じがちである。その結果、ICTシステムに組み込まれた業務知識やノウハウは伝承されなくなり、トラブル発生時の対応が後手にまわる。
ではその対策はどうすればいいのか?
私は、1300年前から始まった伝統ある伊勢神宮の式年遷宮の考え方が大切だと考える。式年遷宮は、20年に一度、内宮と外宮の社殿と神宝を新しく造り替えて、大御神(おおみかみ)にお遷(うつ)りいただく仕組みである。次の式年遷宮は2033年で、すでにその準備は始まっている。
社殿や神宝は20年ではほとんど劣化しない。法隆寺の例にもあるように丁寧に使えば数百年はもつはずでる。また、大御神も古い社殿の中に長年祭られていても文句を言わなだろう。しかしながら、遷宮を担当する宮大工をはじめとする関係者にとっては20年というのは絶妙のタイミングである。どういう意味か? 次の3点は代えがたい利点である。①新人として,ベテランとして,責任者として一生のうちに3回は貴重な経験をもつことができる。②建築技術をはじめとする式年遷宮に伴うノウハウや知識が「暗黙知」として自然に継承される。③次の遷宮に備えて,資材・資源・人材などを長期的な観点から管理できる。
すなわち、式年遷宮は、伝統が変わらないために、絶えず社殿を変えていくという、世界でもの稀(まれ)なエコシステムとなっている。ガラパゴス日本のすぐれた仕組みである。
定期的に作り直す必要性
ICTシステムにもこの考えを導入すべきである。稼働しているシステムは、どんなに安定し効率よく動作していても、定…
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週刊エコノミスト
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