BRICSの中核を占める中国が「一帯一路」を見直し 梶谷懐
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中国の新興国・途上国向けの融資はマイナスに転じている。一帯一路の初期構想は明らかに変化を余儀なくされている。
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「グローバルサウス」という概念が国際政治・経済を語るうえでのキーワードになりつつある。メディア上では新興国・発展途上国の総称として使われているが、この言葉にはいまだ明確な定義は存在しない。中露と西側諸国の双方から距離をとる「第三極」としてとらえる見方もある一方、「西側の国際秩序に対して何らかの不満を抱く国々」という捉え方も可能だろう。
「グローバルサウス」はその名の通り、「グローバル」経済には包摂されているものの、西側の価値観や政治体制を受け入れているわけではない国々として理解するのが穏当なところかもしれない。いうまでもなく、その象徴たる存在こそが中国である。
今年8月に南アフリカで開かれたBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5カ国)首脳会議では、来年1月から新たに6カ国(アルゼンチン、イラン、エジプト、エチオピア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦=UAE)を加えることが発表された。このうち、エチオピアは工業化やインフラ建設などに中国資本がかなり入っており、もともと中国との関係が非常に深い。
中東諸国にしても、エネルギー開発で中国資本を必要としており、同国との関係を深めてきた。またアルゼンチンについては近年、中国との通貨スワップ協定を拡充しており、金融面で中国への依存が強まっている。これらの現象をみても、BRICSの中で最も大きな影響力を持つのが中国であることは間違いないだろう。
また、今年9月にインドで開かれた主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)に、中国の習近平国家主席が欠席したことも話題を集めた。BRICSや上海協力機構(SCO)など、中国が主導的な地位にある国際的な枠組みが存在する中で、G20の位置付けは相対的に下がっているのかもしれない。
余剰資金の“はけ口”に
BRICSの枠組みは、もともと国際的な経済秩序、特に通貨や金融面に関する新興国・途上国の利害を代弁するという性格を持っていた。例えば、2008年のリーマン・ショック以降、多大なドル建て資産を外貨準備などとして保有する新興国から、ドルに依存した国際通貨体制への懸念の声が相次いだが、これを受ける形でBRICSから提起されたのが、国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)の活用だ。
また、新興国の資金不足を解消するため、14年にはBRICSが主体となった「新開発銀行」(BRICS銀行)も設立されている。これらの動きは、欧米を中心とした第二次世界大戦後の国際経済の枠組みに対して、新興国が主体となったオルタナティブな試みを提示する意図があった。ただ一方で、BRICSという枠組みが、その他の新興国・途上国に対して及ぼしてきた経済的な影響力は、あくまで限定的なものにとどまる。
その点では、中国が単独で行ってきた「一帯一路」などを通じた対外資金援助のほうが、はるかに重要な意味を持つ。一帯一路が脚光を浴びていた15…
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週刊エコノミスト
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