ファーウェイ5Gスマホ発表で見えた中国5Gの真価 丸川知雄
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米国や日本が進めてきた対中ハイテク技術封鎖は失敗だった。技術進歩を共有するメリットを逃す損失を認識すべきだ。
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中国・華為技術(ファーウェイ)の5G(第5世代移動通信システム)対応のスマートフォン「Mate60Pro」が8月29日昼に突然ウェブ上で発売され、世界に驚きの声が広がった。ファーウェイは米国政府の輸出規制の対象となっていたが、ついに米国政府の技術封鎖を乗り越え、5Gスマホが作れるようになったことを示していたからだ。
ファーウェイは5Gの関連特許で世界トップを走る(図)。それゆえ米国政府によって脅威と見なされ、先端的な米国産の半導体集積回路(IC)を購入できないだけでなく、自社で設計したICを台湾積体電路製造(TSMC)に生産委託することも禁じられた。米国は中国国内で線幅7ナノメートル(ナノは10億分の1)以下のICを作れないようにIC製造設備の輸出も阻止したため、ファーウェイは5Gスマホを作るのに必要な基幹ICをどこからも調達できなくなった。
2020年に世界のスマホ市場で20%まで拡大していたファーウェイの市場シェアは一気に下落し、21年のファーウェイの売上額は前年より29%も減少していた。ところが、そこに降って湧いたのが今回の新機種発売のニュースである。筆者はこのニュースを広東省深圳市のファーウェイ本社の見学中に聞いた。見学を案内してくれていたファーウェイの若手社員2人にとっても寝耳に水だったようで、非常に興奮していた。
ファーウェイは米国の技術封鎖によってスマホ事業の大半を手放さざるを得なくなるなどの大打撃を受けた後、中国のスマホ市場で徐々に盛り返し、今年4~6月期にはシェアを13.0%にまで引き上げていた。今回の5Gスマホの発売で復活にさらに弾みがつくだろう。
中国のナショナリストたちは、この新機種発売によって、中国が米国に勝ったとばかりにはしゃいでいる。ただ、この件はファーウェイにとっては重要であっても、国レベルで見た時により重要なのは、5Gがどれほど普及し、経済社会に対してどれくらいのインパクトを与えているかである。
産業応用で本領発揮
中国工業情報化省によれば、今年6月時点で中国の5G加入者数は6億7600万人と米国の約5倍、日本の約9倍。5Gの基地局数は今年8月末時点で313万基と、日本の27倍である。もし中国が日米に「勝った」側面があるとするならば、それはむしろ5Gの普及と応用においてである。
日本と中国のスマホユーザーに対して筆者らが行ったアンケート(中国で22年3月に550人を対象に、日本で23年2月に1200人にそれぞれ実施)でも、中国のユーザーの方が5Gのメリットを強く感じていることが分かった。5Gの契約者に対して満足かどうかを尋ねたところ、中国のユーザーの81%が満足してい…
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週刊エコノミスト
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