制裁下でも露経済が“好調”なワケ 西谷公明
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ウクライナ侵攻に対する西側の経済制裁は思うような効果を上げていない。しかし、制裁が長期化すれば西側の技術が入らない影響が及ぶだろう。
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筆者は9月中旬、ロシアの政治、外交・軍事、経済分野の有識者16人とオンライン会議を通じて同国の政治経済、外交に関して議論をする機会を持った。経済分野では、ロシア中央銀行の元エコノミストのプロコペンコ氏、石油・ガス業界コンサルタントのベローヴァ氏、モスクワ大学教授のズバレヴィッチ氏が応じた。いずれの人物も、現地の経済情勢を知る上で、有力な情報源である。
3氏とも、明確には言及しないものの、昨年2月に始まったロシアがウクライナに対して行う「軍事作戦」を否定的にみていることは言葉の端々ににじんでいた。3人の見立てをまとめると、ロシア経済は意外にも好調だ。戦争が特需になり、投資と消費の両面ですこぶる景気がいい。むしろ過熱気味で、それを抑えるために中銀は政策金利を上げている。
2022年のロシアの実質国内総生産(GDP)成長率はマイナス2.1%。ウクライナへ侵攻してしばらくは10%以上のマイナスになるのでは、との見方もあったが、年後半から持ち直した。国際通貨基金(IMF)は、23年のロシア経済の見通しを四半期ごとのアップデートで塗り替えてきた。今年1月時点のプラス0.3%から4月の同0.7%へ、さらに7月にはプラス1.5%へ引き上げている。10月の改定では2%を超える可能性が高い。
開戦後、連邦財政による軍事セクターへの投融資が増えて、産業界の軍需シフトが急速に進んだ。その結果、23年上半期(1~6月)には機械、金属、兵器・防衛、エレクトロニクス、建設、運輸、軍服を縫製するアパレルなど幅広い分野で、前年同期比2ケタ成長を記録。工場では24時間を三つの時間帯に分けて4グループで交代勤務する「4直3交代」も行われている。つまり、工場は大忙しでフル稼働状態なのだ。
EUのLNG輸入は継続
人手不足に対処するため、企業は賃金を引き上げて他産業からの移転を促した。賃金が2倍に跳ね上がった事例もあるという。政府は子どもを持つ家庭への所得補助も行っている。軍人や兵士に対する手厚い給料、戦傷者に対する補償もあり、動員が行われた地方を中心に所得が上昇。年金もインフレ率に応じて引き上げられる。
その結果、1人当たり所得は、インフレ率を上回る実質ベースで上昇した。それが、好調な消費を支えている。また、昨年12月から西側によるロシア産原油の禁輸が始まり、同時に輸出価格に1バレル=60ドルの上限が設けられたが、制裁の効果は23年後半には表れるはずと思われるものの、輸出は減っていないという。
中国とインドがロシア産原油の輸入を増やしていることは、周知の事実。アジアや中東に輸出された一部は、欧州へ再輸出されている。9月29日付の米紙『ウォール・ストリート・ジャーナル』によると、上限のキャップを超える高値で取引されている。制裁にもかかわらず、23年の石油収入は前年を上回るとみられている。
他方、欧州連合(EU)は2…
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週刊エコノミスト
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