経済・企業 蓄電池
太陽光発電から系統用蓄電池へ参入続々 補助金頼みの一面も 本橋恵一
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大量の電気をためておけない現在は、太陽光でせっかく発電しても、余る分は出力を抑制するしかない。しかし、今後は変わっていくかもしれない。
日中・夜間の電力価格差活用
2012年に導入された固定価格買い取り制度(FIT)は、日本全国で太陽光発電の建設ブームを巻き起こした。小規模な太陽光発電が、農村の一風景となる一方で、林地を中心に多くの大規模太陽光発電(メガソーラー)が建設された。23年現在、FITによる太陽光発電の建設ブームはひと段落ついた状態だ。FITによる買い取り価格は、12年に1キロワット時当たり40円だったのが、22年は同10円まで下がっている。太陽光発電が急増したため、買い取り価格も下げられているのだ。
10円前後では採算確保は難しく、最近、FITによる買い取りに代わって増加しているのが、企業向けの太陽光発電の「コーポレートPPA(電力販売契約)」。これは特定の企業と長期売電契約を結ぶことで、安定収益を確保する方法だ。ただし、過去のように太陽光発電が急増する時代ではないことは確か。そうした中で、太陽光発電事業者などが新たなビジネス分野として次々に参入しているのが「系統用蓄電池事業」だ。
系統用蓄電池とは、畑などに太陽光発電施設を建設する代わりに大型の蓄電池を設置して、電力が余っている時はその電気を安く買い、電力が不足する時に電気を高く売るという設備だ。また、蓄電池なので電力の急激な需給変動を緩和する役目も期待されている。
日本で販売される電力の約3割は、日本卸電力取引所(JEPX)を通じて取引されている。JEPXで取引される電気は、時間帯ごとに1キロワット時当たりの価格が異なっており、30分単位のスポット市場価格で売買されている。このため、全国各地で急増した太陽光発電の稼働率が高くなる日中は、スポット市場価格は安くなり、逆に日没直後の夕方は高くなる傾向がある。
図1は今年10月2日のスポット市場価格の動きで、日中と夕方・夜間の価格差が大きいことが分かる。春や秋は電力需要が大幅に減少し、電力が余ってしまうため、最近は各電力会社が太陽光発電の出力抑制に取り組み始めている。
政府も補助金で支援
系統用蓄電池は、こうした余った太陽光発電の電気を充電し、有効利用することができる。そのため、今後の電力システムには不可欠な設備と考えられており、政府も設置のための補助金制度を導入している。
系統用蓄電池に用いられる蓄電池には、リチウムイオンを用いる「リチウムイオン電池」のほか、ナトリウムと硫黄を使った「NAS電池」やイオンの酸化還元反応を利用する「レドックスフロー電池」も用いられる。1台当たりの蓄電容量が2000~4500キロワット時と大型で、一般家庭が使う電気の約10カ月分に相当する。出力は500~2000キロワット程度の範囲で調節可能だ。
主な蓄電池メーカーは、TMEIC(東芝三菱電機産業システム)、日本ガイシ、ジーエス・ユアサコーポレーションなど。世界的には米テスラや韓国のLGエナジーソリューションが大きなシェアを持ち、日本市場へは中国のCATLやファーウェイなどの参入が目立つ。
系統用蓄電池事業には、大手電力や都市ガス、石油元売り会社、再エネ事業会社ほか、大小さまざまな企業が参画しており、蓄電池を1台で運用するケースから、何十台もある巨大な蓄電所として建設・運用する場合もあり、1台当たりの設置費用は工事費なども含めて5億~7億円とされる。
導入例としては、今年6月に再エネ事業のパシフィコ・エナジーが、札幌市と福岡県糸島市にそれぞれ2000キロワットの蓄電池を設置し、電力市場向けの運用を開始。大阪ガスと伊藤忠商事、東京センチュリーは、25年度上期の運転開始を目指し、大阪府吹田市の大阪ガスの拠点に1万1000キロワットの蓄電池を設置する工事を開始している。
ここ2年程度で建設件数が急増しており、政府も21年度補正予算で130億円の補助を開始。22年度も補正予算で、家庭用、業務・産業用蓄電池、水電解装置などの導入支援も含めて、255億円の補助を行っているが、急増する建設計画の一部しか手当てできていないない状況だ。例えば、再エネの導入量が多い北海道では、22年7月末時点で北海道電力に対する系統用蓄電池の接続申し込みが61件、計160万キロワット…
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週刊エコノミスト
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