穀物輸出国がBRICSに集結 西側農業国に代わる補完関係に 阮蔚
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ロシアのウクライナ侵攻で小麦価格が一時高騰したが、現在は落ち着いている。各国で増産が進んだほか、ロシア産がウクライナ産を穴埋めしているとみられる。
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今年8月のBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)首脳会議で、新たに6カ国(アルゼンチン、エジプト、イラン、エチオピア、サウジアラビア、アラブ首長国連邦=UAE)が新規加盟することが決まった。石油・天然ガスというエネルギー分野で影響力の大きな枠組みになると考えられるが、世界の主な穀物輸出国が入っていることも注目に値する。これらの国々が中国という一大輸入国と結びつくことで、食糧市場における影響力も大きな枠組みとなる。
世界の食糧需給は長く、基本的に西側の農業大国が輸出し、途上国が輸入するという構図だった。米国は依然として世界最大の穀物輸出国であり、欧州連合(EU)やカナダ、豪州などが名を連ねている。しかし今、そうした西側諸国にとって代わろうとしているのがBRICSだ。特に、主要穀物である小麦、トウモロコシ、大豆の貿易では、ここ10年で輸出に占めるBRICSの比重が高まっている。一方、アジアの主要な穀物であるコメは、各国で自給自足できている状態のため、貿易への依存度は低い。
米国は長く小麦、トウモロコシ、大豆で世界最大の輸出国だったが、現在は小麦でロシアがトップの輸出国となり(表1)、大豆ではブラジルが世界一の輸出国になっている(表2)。また、トウモロコシではアルゼンチンやブラジルが輸出量の多さで存在感を高めている(表3)。ロシアやブラジル、アルゼンチンは今後、生産量をさらに拡大し、供給過剰となる可能性が高い。生産する穀物を購入してくれる市場を必要とする中、現れたのが中国という世界最大の穀物消費国である。
調達を多角化する中国
中国で近年、顕著なのが食肉生産の伸びであり、飼料用としてのトウモロコシ、大豆の需要が増加している。豚肉や鶏肉の中国国内の生産や消費は新型コロナウイルス禍で一時、落ち込んだものの、コロナ禍前の水準をほぼ回復した。ただ、中国は飼料用のトウモロコシの一大生産国でもあるが、生産の効率化が進まなかったことなどを理由に、価格競争力を失いつつある。中国国内の養豚や養鶏業者が安価な飼料用穀物を求めた結果としてトウモロコシの輸入が増加している。一方、大豆では世界の輸入に占める現在の中国のシェアは6割近くにもなる。
また、中国は穀物の多くを米国から輸入しているが、米中対立が強調されるようになったここ数年、輸入先の多角化を進めている。その象徴的な事例が、今年1月にブラジルから、5月には南アフリカから、それぞれ初めて飼料用のトウモロコシを輸入しことだ。中国では人口増加はピークを迎えつつあるものの、1人当たりの所得の増加によって今後も高水準の食肉消費が続く見込みで、拡大BRICSとして関係を深めることで飼料用穀物の安定した調達先を確保できる意義は大きい。
同様のことは、新たにBRICSに加盟が決まった他の穀物輸入国についてもいえる。イランやエジプト、エチオピアは小麦の主要な輸入国であり、中でもエジプトやエチオピアでは今後もさらに人口が増えていくことが見込まれ、小麦の安定調達は大きな課題となる。また、世界一の人口大国となったインドは小麦、コメで中国…
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週刊エコノミスト
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