インタビュー「アベノミクスは脱デフレを目指した調整インフレに向けたもがきだった」寺島実郎・日本総合研究所会長
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内外の有識者と活発な議論を繰り返す寺島実郎氏に、なぜ日本の円安が止まらないかを聞いた。(聞き手=浜條元保/中西拓司・編集部)
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安倍晋三元首相のアベノミクスとは脱デフレを目指し、調整インフレに向けたもがきだった。それが失敗に終わり、アベノミクスが呪縛となって絡みついている状態といえるだろう。ここでいう「調整インフレ」とは、意図的にインフレ(物価上昇)に持っていって、債務の負担軽減を図ろうとする政策だ。
9月中旬に英ロンドンを訪れ、現地の有識者と「不思議の国の日本」について議論した。欧米各国が2021年以降のインフレ対応に金利を引き上げているのに、なぜ日本だけが「金融の正常化」に動かないのか。日銀が金融を緩和し続ければ、インフレが起こせるという根拠薄弱なリフレ経済学者の理論にのって、金融政策に過剰依存した政策から抜け出せないでいる日本に対する疑問だ。
日本通の有識者は、正常化に動かないばかりか、巨額の政府債務を抱える日本がなぜ、財政支出を繰り返すのか、まったく理解できないでいる。英国では、財源を明確にしないままのバラマキ政策を掲げたトラス前首相はわずか1カ月半で退陣に追い込まれた。そんなバラマキをすれば、信認を失い、英ポンドは暴落するとマーケットから引きずり下ろされたのだ。
財政規律が働いている証左ともいえるが、英国の公的債務は対名目GDP(国内総生産)で87%。日本は同264%だ。「よくこんな放漫財政が続けられるな」と、有識者はあきれ顔だった。
財政規律のなさは、国債の格付けに表れている。日本の格付けはドイツやオランダ、米国、韓国よりも低く中国と同じ「A1」だ(米ムーディーズ・インベスターズ・サービス)。正常化に動けず財政規律のなさが今の異様なまでの円安状況に象徴される。
日米の金利差からの円安ではなく、信認の欠如から円は「アジア最弱通貨」となりつつある。
物価高の本質は円安
アベノミクスがもくろんだ「金融緩和→調整インフレ→名目GDP600兆円達成」の検証はいまだにされていない。20年に始まったコロナを口実に、政策当局者は沈黙したまま。この光景が世界からは異様を通り越して、こっけいな存在に映っている。
しかし、調整インフレは今に始まったことではない。人類は歴史的にこれを繰り返してきた。米ウォール街をはじめ世界のマネーゲーマーは、借金をして…
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週刊エコノミスト
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