日本でも解禁必至のライドシェア 対応迫られる三つの課題 中村吉明
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観光地では訪日客の急増でタクシーがつかまらない。運転手不足の解決策として「ライドシェア」の解禁が浮上している。
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菅義偉前首相が「ライドシェア」の解禁に言及した。自家用車に面識のない他人を乗せて報酬を得たい個人と、乗車したい個人をスマートフォンのアプリで結び付けるサービスのことだ。8月19日、長野市の講演会でタクシー不足の解消策として「ライドシェアの解禁については肯定的か」と司会者が聞くと、菅氏は「私は今そう思っています。いろんな意見があるわけですけれど、これだけ人手不足になってきたら、そうした方向も必要かなと思っています」と述べた。
8月31日には千葉県の熊谷俊人知事が「研究していくように指示した」、9月22日には河野太郎デジタル担当相が「公共交通サービスを提供できない地域を中心にどういう形で提供するのかという議論を積極的にしていきたい」と述べるなどにわかに機運が高まっている。
どんなサービスなのか。乗客の利用法は、ライドシェア事業者のアプリをスマホにインストールし、クレジットカード番号などを登録する。アプリで目的地を指定すると、迎えに来る車の到着予定時刻、車種、ナンバープレート、乗車料金などが表示される。到着するのはタクシーではなく、自家用車だ。
世界に先駆けて2010年に事業を始めたのは米ウーバー・テクノロジーズ。日本では出前サービスの「ウーバーイーツ」で知られているが、外国ではライドシェアやタクシー配車などを含むモビリティー事業が主力だ。同事業の22年度売上高は前年度比102%増の140億ドル(約2兆円)に上った。決算資料によれば、主に米国、カナダ、中南米、欧州、中東、中国・東南アジアを除くアジアの約70カ国で営業しているという。
国内でもウーバーのアプリを使えば配車を受けられるが、到着するのは同社と提携するタクシーだ。迎車料金(最大500円)と手数料(100円)がかかるので道端で拾うタクシーより高くなる。
ウーバーがサービスを始めた後、米市場2位のリフト、中国最大手の滴滴出行(ディディ)、東南アジア最大手でシンガポールに本社があるグラブ・ホールディングスなどが続々と参入した。こうして16年ごろまでに世界各地で便利な交通手段として普及し、国内でも導入に期待する声が上がった。
国交省が認める特例
しかし、国土交通省は「白タク行為」に当たるとして、原則として違法行為と扱っている。「原則として」と書いたのは、例外的に認めるケースがあるからだ。06年の道路運送法改正で創設された「交通空白地有償運送」という特例制度は、路線バスなど公共交通機関の維持が難しい交通空白地で、住民に公共交通機関に代わる移動手段として認めている。実例としては、京都府京丹後市の民間非営利団体(NPO)「気張る!ふるさと丹後町」が16年に始めた自家用車を用いた住民の有償送迎がある。
この特例を受けるには地域公共交通会議で協議する必要がある。地元のバスやタクシーの事業者が属す団体が構成員となるため、事業を始めるには既得権者の了解を得なければならないこと…
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週刊エコノミスト
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