インドで普及する最先端決済システム「UPI」とは 岩崎薫里
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金融のデジタル化が進むインド。世界最先端の決済システムが導入され、キャッシュレスが急速に普及している。
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インド政府はデジタル技術を、社会・経済面での後れを一気に挽回して国民が経済的に豊かになるための重要なツールと捉え、さまざまな分野でデジタル化を進めてきた。とりわけ金融のデジタル化については、国民福祉の向上、経済活動の効率化、個人や中小零細企業の財務基盤の底上げなどへの期待から、積極的に取り組んでいる。その中で特に世界的に高い評価を得ているのが、キャッシュレスを推進する観点から導入された電子送金システム「統合決済インターフェース(UPI)」である。
コロナ禍で急拡大
UPIとは、スマートフォンを利用して24時間365日、銀行口座間の即時送金を可能とする、相互運用性を確立した決済システムであり、世界的にも最先端を行く(表)。
2016年にインド決済公社(NPCI)によって開発され、民間事業者に開放されると、これを活用した電子決済サービスの提供が相次いだ。そして、瞬く間にクレジットカード・デビットカードやプリペイド支払い手段(電子マネーなど)を上回って利用されるようになり、リテール電子決済件数全体に占めるUPIの割合も、今や74%に達する(22年度、図1)。
UPIの登場に加えて、16年11月の高額紙幣の廃止や、20年の新型コロナウイルス禍に伴う非対面・非接触ニーズの高まりを受けて、リテール電子決済件数は15年度から22年度にかけて19.4倍に拡大した(インド中銀)。
UPIサービスがインドで広く受け入れられた理由としては、いつでも簡単かつ即座に送金できる手軽さ、銀行口座番号とバーチャルアドレスをリンクさせることで、相手に銀行口座番号を教えなくても送金を受け取れる安心感、QRコードとの組み合わせにより、リアル店舗での支払いにも利用できる利便性などが指摘できる。さらに、インド政府によるキャッシュレス推進の観点から、手数料が基本的に無料に設定されていることも大きな魅力となっている。利用者は無料でUPIサービスを利用でき、小売店や飲食店も顧客がUPIサービスで支払った場合に手数料を徴収されない。とくに後者は、UPIを自店で積極的に取り扱おうというインセンティブになり、利用可能場所の拡大に大きく貢献した。
個人がUPIサービスを利用するには、まずUPIのアプリを取得する必要がある。クレジットカードで買い物をするのにクレジットカードを取得する行為に相当する。そして、例えば日本でビザのクレジットカードを三井住友カードや楽天カードなど複数のカード会社が提供しているのと同様に、UPIアプリを提供するのは複数の銀行、およびサードパーティー・アプリ提供者(TPAP)と呼ばれる事業会社である。TPAPの場合、UPIサービスを直接ではなく、提携銀行を通じて利用者に提供する仕組みとなっている。UPIアプリの提供者は、開放されているUPI基盤を活用すればよいため、決済システムを自社でゼロから構築する必要がない。
2社でシェア8割
インド政府は、さまざまな事業者がUPIサービスを提供し競い合うことを期待していた。ところが実際には、サービス提供者自体は数多く存在するものの、そのなかでフォーンペ(ウォルマート傘下のEコマース企業であるフリップカートが所有)とグーグルペイ(グーグル系)が合計で8割の市場シェアを獲得し、2強体制を築いている。この2社から大きく引き離されて地場の専業事業者ペイティーエムが3番手に控える(図2)。
フォーンペとグーグルペイが…
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週刊エコノミスト
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