「メーク・イン・インディア」の旗を掲げて9年 “ものづくり立国”道半ば 熊谷章太郎
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経済発展には製造業の勃興が欠かせないが、インドの足元は足踏み状態だ。来年の総選挙を機に、外資の投資環境が改善するかが注目される。
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米中対立の深刻化を背景にアジアのサプライチェーンの再編が加速するなか、アジア各国はこれを自国の製造業振興のチャンスと捉え、投資誘致に向けた取り組みを強化している。これまでのところ、中国からの生産移転はベトナムに集中しているが、同国が中国の製造業を代替できる余地は限られており、本格的な再編が進むか否かは同様の動きがアジア新興国全体に広がっていくかがカギとなる。その中で特に注目されるのは、現在の1人当たり名目GDP(国内総生産)が2000ドル台と低く、今年世界最大の人口大国になったインドである。
2014年9月以降、インドは「メーク・イン・インディア」をキャッチフレーズとする製造業振興キャンペーンを展開しているが、同国が製造業の発展を目指す目的としては以下の2点が挙げられる。
第一に、失業問題の解消である。インドは年間1000万人を上回るペースで生産年齢人口(15~64歳人口)が増加するなど、恒常的に労働供給が需要を上回りやすい構造となっている。失業やそれに起因する飢餓、貧困、自殺といった諸問題の解消に向けて、政府は雇用創出効果の大きい労働集約型の製造業を発展させることを目指している。
第二に、貿易赤字の縮小である。インドは貿易赤字を主因とする経常収支の赤字体質が続いており、ルピー安とインフレの悪循環に陥るリスクを常に抱えている。また、20年の印中国境紛争以降、最大の輸入相手国である中国からの輸入が不安定化するリスクも高まっている。そのため、インドは対中貿易赤字の縮小に必要な資本集約型製造業の育成も急いでいる。
モディ政権で改革推進
前政権(国民会議派のマンモハン・シン政権)でも製造業の振興に向けた政策は展開されてきたが、外資受け入れに消極的な連立左派政党の反対もあり、経済改革は進まなかった。こうしたなか、14年に経済改革に積極的なモディ政権が発足すると、政府はビジネス環境の改善に向けてさまざまな経済改革を断行した。代表的な取り組みとしては、①GST(財・サービス税)の導入を通じた税制簡素化、②事業再生・清算手続きの円滑化に向けた倒産・破産法の制定、③起業、建設許可、貿易取引などに必要な各種手続きの一元化、簡素化、オンライン化、などである。また、政府は、生産額の増加に応じて奨励金を給付する「PLIスキーム(生産連動型優遇策)」や、半導体産業の発展を財政面から支援する「ISM(インド半導体ミッション)」を打ち出しているほか、輸入関税を引き上げるなど、近年は補助金政策と輸入規制を組み合わせることで製造業の発展を加速させようとしている。スマートフォンやエアコンなどで輸入を現地生産に切り替える動きが進んでい…
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週刊エコノミスト
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