勢い増すインド外食市場 伝統を超える外資系 伝統をうたう菜食料理店 小林真樹
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「ハレの日」に食べる宴席料理が原点だったインドの外食。カーストとも結びついたその形に変化が見られている。
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デリーやムンバイといった大都市圏はもとより、地方都市でも急増しつつある巨大なショッピングモール。週末の午後、そのフードコートを訪ねてみると、広々としたイートインスペースは全て埋まっていて、空席待ちを余儀なくされるほどの混雑ぶりだった。
コルマ(カレー)にナン、ビリヤニ(炊き込みご飯)といったムガル宮廷風の北インド料理から、ドーサ(薄焼きパン)にイドゥリ(蒸しパン)といった南インド発祥の軽食類まで、フードコートにはインド各地のさまざまなご当地料理を出すテナントがひしめいている。中でも若者客を中心に人気なのはケンタッキーフライドチキン(KFC)やマクドナルドといった外資系のファストフードである。地元料理よりも欧米式のファストフードに若者が集まるのは全世界共通の現象かもしれない。だが、多少なりともインドを知る人なら首をかしげるだろう。「あのインドで、ハンバーガーを」と。
「ビーフ100%」が売りだったはずのマクドナルドがインド進出を決めた時、一体、誰が現在の成功を予測し得ただろう。インド最大の人口を占めるヒンズー教徒にとって牛は聖なる存在であり、食用に供することなどタブーである(一部地域を除く)。当然、インドのマクドナルドで出されるハンバーガーはビーフ不使用。代わりに主に鶏肉やパニールと呼ばれるカッテージチーズや野菜の具を挟んだバーガーが半数以上を占める。こうしたインド人の食習慣や嗜好(しこう)に合わせたカスタマイズが功を奏して、現在マクドナルドはインド全土に357の店舗を構える。
立ちはだかる「カースト」
このように外食産業華やかなりしインドだが、実はまだまだ「外で食事をすること」に対して否定的な人は少なくない。「どんな食材が使われているかわからない」「油と塩分が多くて体に良くない」といった健康面での心配事のほかに、インドならではの心配事もある。それがカーストの問題だ。
インド社会はジャーティーと呼ばれる集団に細分化され、浄・不浄の観念に基づき序列付けられている。自分たちより低いジャーティーの触れた料理を口にしては宗教的にけがれるとされるのだ。つまり外食店の厨房(ちゅうぼう)で働く、どんな身分かもわからない人間の作る料理など、うかつに…
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週刊エコノミスト
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