残るカースト差別 消えぬジェンダー差別 経済に比べ遅い変化 鈴木真弥
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日本の総人口を超えるダリト(旧不可触民)の人々。ジェンダーや地域格差も深刻だ。
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「朝、娘の学校では出欠を取る。名簿に、『出自〔ジャーティー、いわゆるカースト〕』の欄があって、娘は男子にそれを見られた。『お前、アレなのか』とからかわれたみたい。娘たちには、何度となく言い聞かせているの。差別はついて回る、だけどその壁を乗り越えていけって。そう言う私も、差別は克服できてない。社会の構造を背負って生きている。きっと息絶えるときまで同じだと思う…(略)…ロケットを飛ばすくらい、インドは発展した。でも、この件に関してはあまりにも遅れている」
因習と闘う人々
これは、2023年9月に日本で公開されたインド映画「燃えあがる女性記者たち」のなかで、メインキャストのひとりであるダリト(旧不可触民。行政用語では「指定カースト」とよばれる)出身の女性記者ミーラがカーストについて語ったセリフだ(映画パンフレットより。〔 〕内は筆者)。
この映画はインド北部のウッタルプラデシュ州を舞台に、草の根から政治・社会問題を取材し、長い間続いてきたカーストや女性差別の因習と闘う女性記者たちの姿を追うドキュメンタリー作品である。筆者が出会ってきた女性たちの経験とも重なり、共感するシーンが多くあった。
同じく9月、インドは初議長国として主要20カ国・地域(G20)ニューデリー・サミットを首都で開催し、モディ首相は世界に存在感をアピールした。国際政治や経済分野でインドへの期待と注目が急速に高まるなか、インド社会はどうなっているのだろうか。筆者は、ダリトの人々と運動に注目することで、その動向を捉えようとしてきた。
カーストは、今でもインド社会を考えるうえで重要なキーワードだ。しかし、映画でミーラのセリフにあった「アレ」「この件」のように、日常生活で出自を示すカーストに直接言及することは避けられる傾向にある。「この件〔カースト差別〕に関してはあまりにも遅れている」と嘆くミーラのいら立ちが画面から強く伝わってきた。
ダリトの人口は2億人を超え、インド全人口の16.6%を占める(以下、11年国勢調査)。インド憲法はカーストによる差別を禁止し、ダリトに対する差別行為や暴力を取り締まる法制度や教育・雇用を支援する福祉政策も独立以降取り組まれてきた。ダリト全体の識字率(66.1%)は、イン…
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週刊エコノミスト
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