万が一「イランに飛び火」なら原油高騰も 小山堅
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パレスチナ情勢が中東の石油供給に影響を及ぼす場合、石油価格は一気に跳ね上がる。可能性は低くても有事への備えは必要だ。
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中東パレスチナ・ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスが10月7日、イスラエルに大規模な奇襲攻撃を開始した。不意を突かれたイスラエルは、1400人以上の死者を出し、200人以上が人質として拉致されるなど甚大な被害を受けた。
イスラエルは直ちに反撃に転じガザを包囲、激しい空爆を継続している。史上最大の36万人の予備役を招集し、本格的なガザ侵攻(地上戦)開始に向けてイスラエルは準備を進めているとされる。本稿執筆時点(10月29日)では、地上戦は始まっていないが、開始されれば現時点で双方合計9000人超とされる死者数が激増することは不可避となる。
OPECは禁輸に動かず
イスラエルによる包囲と激しい空爆でガザの人道危機は極めて深刻なものとなりつつある。この状況下、イスラエルに対する激しい抗議がヨルダン川西岸地域でも高まり、イランとの関係が指摘されるイスラム教シーア派組織のヒズボラとイスラエルがレバノン国境で交戦するなど、中東の地政学情勢は一気に流動化している。地上戦開始やその後の展開次第で中東情勢全体が大荒れとなる可能性がある。
地政学情勢不安定化に原油価格が反応している。9月27日から10月6日まで、原油価格は世界経済減速懸念で1バレル=12ドルも低下したが、ハマスの奇襲攻撃発生後、急反発した。10月18日には、イランがイスラム諸国に対して対イスラエル石油禁輸を呼びかけ、石油供給不安から北海ブレント原油先物価格は1バレル=90ドルを大きく上回った。その後も80ドル台後半を中心とした推移が続いた。
イランによる石油禁輸の呼びかけが本格的な価格上昇をもたらさなかった背景には、現時点では禁輸実施の可能性はほとんどない、との市場関係者の読みがある。石油輸出国機構(OPEC)もこの呼びかけには一線を画しており禁輸に動く兆しは見られない。中東産油国は、仮に対イスラエル石油禁輸を実施して原油価格上昇となれば、米国を本格的に敵に回し、石油離れを改めて促す契機にもなりかねず、自らの首を絞める可能性があることを十分に理解しているものと思われる。
その意味で、今後の原油価格を見る上では、実際に中東の石油供給に影響が出るかどうか、が注目点となる。現時点までは、武力衝突で中東の石油供給に影響が出るのではという「読み」が先物市場での買いを誘ってきた。少なくとも現時点までは中東の石油供給には特段何の影響もなく、石油は国際市場に供給され続けている。この状況が続けば、地政学リスクによる反応は落ち着いてくる可能性も考えられる。
地上戦開始の場合、直ちに原油価格が急上昇する可能性もあるが、価格上昇が続くのか、高止まりするのかは石油供給への影響次第である。地上戦激化の下でも石油供給には影響しない場合には、原油価格は再び低下の方向に向かう可能性がある。
「イラン関与」なら要注意
問題は、地政学リスクが石油供給に影響する場合であり、今回のケースではハマスの…
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週刊エコノミスト
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