インタビュー「イスラエルはアパルトヘイト国家」岡真理・早稲田大学文学学術院教授、京都大学名誉教授
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一般市民に多数の被害者を出すガザ地区。パレスチナ問題の専門家がイスラエルによる国家犯罪を糾弾する。(聞き手=浜田健太郎・編集部)
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── パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルに攻撃を行い、その報復としてイスラエル軍がガザ地区に大規模な攻撃を連日行っている。一般市民に多数の犠牲者が出ている悲惨な現状をどのように認識しているか。
■1948年に国連総会で採択された「ジェノサイド条約」(51年発効)によれば、ジェノサイドとは、国民的、人種的、宗教的集団を破壊する意図を持って集団構成員を殺すこと、肉体的、精神的な危害を加えること。今、起きていることはジェノサイドそのもの。しかし、イスラエルによるガザのパレスチナ人に対する一方的な殺りくは、今回が初めてではない。これまで何度も繰り返し行われてきた。
「暴力の連鎖」ではない
── 具体的には?
■例えば、2008年12月~09年1月の攻撃で、パレスチナ側は死者1400人以上に及んだ。当時、約150万人が閉じ込められていたガザに、イスラエル軍はミサイル、砲弾を陸、海、空から浴びせて国際法で禁じられた白リン弾まで使用して住民を虐殺した。停戦後に報告書がまとめられ、ガザ、イスラエル双方に戦争犯罪があったと指摘した。報告書は、国連総会で賛成多数で可決されたが、米国とイスラエルは反対票を投じた。イスラエルの戦争犯罪が裁かれることはなかった。
82年にイスラエル軍は内戦中だったレバノンに侵攻し、首都ベイルートを占領した当時、イスラエルはレバノンの右派民兵組織がベイルート郊外のパレスチナ人難民キャンプ、「サブラ」と「シャティーラ」を襲撃するのを支援、2000人以上が殺害された。国連はこの事件について、「ジェノサイドではないが、ジェノサイド的行為」と認定した。
パレスチナ人による「帰還の大行進」では18年3月から半年間で死者は約150人、負傷者は少なく見積もって1万人と、国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは報告している。故郷に帰る権利や完全封鎖の解除を訴える非暴力のデモだったが、イスラエル軍は催涙弾を打ち込み、スナイパーが狙撃をしてデモ参加者が多数、死傷した。
── ガザとはどんな場所か。
■巨大な実験場だ。100万人以上の難民たちを閉じ込めて、50年以上占領下に置き、16年以上も完全封鎖してきた。水、食料、医薬品、燃料を、辛うじて生存を維持できる程度しか与えずにいたら、人間や社会にどのようなことが起こるのか、という実験が続けられている。産業基盤を破壊し、何年かに一度大規模に殺りくして、社会インフラを破壊することが07年の完全封鎖以来16年間続いてきた。
ガザは、イスラエルが装備する武器の性能を試す実験場でもある。大規模攻撃を仕掛ければ、世界のニュースが放送して最新兵器の威力を実演するショーケースになる。
── メディアの報道ぶりをどうみている。
■日本では、歴史的な文脈でパレスチナ問題を報道していない。10月22日放送の「NHKスペシャル」は、「問題の根源」に向き合う必要性までは…
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週刊エコノミスト
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