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コロナ禍もウクライナ戦争も乗り越えて進む「欧州グリーンディール」 岩坂英美
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「欧州グリーンディール」を主導してきたフォンデアライエン欧州委員長の任期が来年10月に迫る。同6月の欧州議会選の結果が大きく影響しそうだ。
注目は来年6月の欧州議会選 世論のつなぎとめが焦点
欧州連合(EU)で脱炭素化と経済成長の両立を図る戦略「欧州グリーンディール」が着実に進展している。2019年12月に策定された後、ロシアのウクライナ侵攻などさまざまな危機に見舞われたが、脱炭素化の機運は衰えず、大きなプロジェクトも具体的に動き出している。ただ、足元では高インフレの影響が尾を引き、景気後退のリスクも高まる中、世論の支持をいかにつなぎとめるかが焦点となっている。
オランダ北部のフローニンゲン地方で今、進んでいるのが、欧州最大級の水素プロジェクト「NortH₂」である。30年に4ギガワット、40年に10ギガワット相当の電解槽を設置し、北海の洋上風力発電をもとに年間100万トンのグリーン水素(主に再エネを利用して作られる水素)の生産を計画する。蘭エネルギー大手エネコや独エネルギー大手RWEなどが参画し、生産した水素はオランダやドイツの鉄鋼、化学産業で利用を予定する。
フローニンゲン地方では60年にわたって天然ガスが採掘されていたが、今年10月に稼働停止した。採掘による地震の頻発を受けてオランダ政府が稼働停止を検討する中で、昨年2月にウクライナ侵攻が発生してガス需給が逼迫(ひっぱく)したため操業を続けていた。NortH₂はそうした天然ガスの採掘事業に代わり、地域に産業を生みだす狙いもある。
また、欧州最大の貿易港であるオランダのロッテルダム港では、30年までに年間460万トン(輸入400万トン、製造60万トン)の水素供給を目指すプロジェクトが進む。EUの水素供給目標の4分の1に当たる量で、英石油大手シェルなどが参画する関連プロジェクトの一つ「オランダ水素I」では、200メガワット相当の電解槽を設置し、洋上風力発電をもとにグリーン水素の生産を計画する。
欧州グリーンディールは50年までに温室効果ガス(GHG)の排出を実質(ネット)ゼロにすることを目標に掲げ、フォンデアライエン欧州委員長の就任と同時に発表された。21年7月には、中間点となる30年のGHG削減目標を1990年比で「40%以上」から「55%以上」へ引き上げることを定めた欧州気候法が施行され、一連の関連法を改定する「Fit for 55」パッケージを提案し、脱炭素政策の基盤を確立した。
企業に排出量報告義務も
この間、さまざまな逆風にも直面した。20年春からの新型コロナウイルスの感染拡大の際には、7500億ユーロ(約119兆円)規模にものぼる復興基金の4割弱をグリーン分野に投じることを定めるなど、同分野の成長戦略としての側面を強調した。ウクライナ侵攻に対しては昨年5月、「REPowerEU」計画を打ち出し、ロシ…
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週刊エコノミスト
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