基礎的財政収支の25年度黒字化はムリ 甘い試算が招くツケ 小黒一正
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財政収支の予測と実績は乖離が大きく、債務が膨張する可能性がある。
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政府は2025年度の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)の黒字化目標を堅持しており、23年7月25日開催の経済財政諮問会議で、岸田文雄首相は「適切な経済財政運営や歳出改革を継続すれば、25年度の国と地方を合わせた基礎的財政収支の黒字化が視野に入る結果となっている」と述べた。確かにPB黒字化が実現すれば財政健全化への一歩だが、本稿ではその実現可能性を吟味してみたい。
財政健全化の鍵を握るポイントの一つは、補正予算や減税などを今後も毎年実施するか否か、実施する場合はどの程度の規模になるかだ。例えば、政府は今年11月上旬、約17兆円の経済対策を閣議決定し、約13兆円の補正予算を編成した。9兆円弱の国債を追加発行するが、こうした対応を継続する限り、25年度のPB黒字化目標は達成できない。
表は、内閣府の「中長期の経済財政に関する試算」のベースラインケースなどの予測と実績を示したものだが、19年度以降、PBの予測と実績の乖離(かいり)は拡大している。この傾向が続けば25年度PB黒字化は困難で、政府の債務残高(対国内総生産、GDP)も増加の一途をたどるシナリオが濃厚だ。
債務残高(対GDP)はどの程度まで膨張するリスクがあるのか。内閣府が23年7月に公表した最新の試算では、ベースラインケース(24年度以降の名目GDP成長率0.5〜2.5%)で、32年度の財政収支(FB)の赤字幅(対GDP)はマイナス1.3%に収まるとしている。債務残高の収束値は「ドーマー命題」で把握でき、中長期的なFB赤字(対GDP)をq、名目GDP成長率をnとすると、債務残高(対GDP)の収束値は「q÷n」で計算できる。
内閣府の試算では、FB赤字(対GDP)は32年度以降で拡大基調だが、とりあえず、既述の値からqを1.3%とする。nを1995年度から22年度までの平均成長率の0.35%とした場合は、債務残高(対GDP)の収束値は約371%(1.3÷0.35)となる。つまり、債務残高(対GDP)は現在の値(約210%)より大幅に膨張する可能性がある。
債務残高のGDP比395%?
だが、この試算は甘い。表のFB赤字(対GDP)の予測の平均は3.58%だが、実績の平均は4.75%もある。平均成長率…
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週刊エコノミスト
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