経済・企業

最高益トヨタの冷静な戦略 EV市場急減速の影響受けず 遠藤功治

トヨタ自動車の業績、株価は絶好調(今年8月に発表した新型スポーツタイプ多目的車「ランドクルーザー250」(Bloomberg))
トヨタ自動車の業績、株価は絶好調(今年8月に発表した新型スポーツタイプ多目的車「ランドクルーザー250」(Bloomberg))

 世界はEV市場減速に陥いるが、焦らない日本企業は空前の好業績だ。

>>特集「日本経済総予測2024」はこちら

 2023年の自動車業界の業績は過去最高益を更新すると予想される。大手6社の売上高合計は初めて100兆円を超え、24年3月期の連結営業利益も多くの自動車会社が大幅な伸びを記録する模様だ。

 新型コロナウイルス禍や半導体不足の影響がほぼ解消し、利益頭の米国は販売堅調、需給タイト、大幅値上げの浸透で絶好調。各種材料価格の上昇も落ち着き始め、円相場も対ドルで大きく円安が進み、大手で業績の大幅な上方修正が相次いだ。中国市場の低迷や電気自動車(EV)の出遅れなどもあったが、こうした追い風要因が大きく勝った。

 さらに、東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)1倍割れ企業に是正を要求し、各自動車会社は大幅増配、自社株取得、政策保有株の売却などを進め、資本効率の改善と株主還元策を進めたことも大きかった。この結果、各社の株価は大きく上昇しており、トヨタ自動車、ホンダ、デンソーは上場来高値を更新している。

 24年は日銀の金融政策変更や米国の利下げの動きなどにより、円高になる可能性がある。中国市場が低迷した状態で米景気が弱含みの推移となれば、販売台数伸び悩み、需給の緩和、販売奨励金の増加、中古車価格の下落、自動車ローン貸し倒れなどの増加が予想され、最大の「キャッシュカウ」(金のなる木)である米市場の利益は頭打ちになる可能性が高い。

 東南アジア市場の需要も弱含みで、欧州市場も不透明だ。一方で、将来への先行投資拡大で、人件費や研究開発費は高い伸びを続けており、販売台数が伸びずに限界利益の増加が最小限、円高シナリオとなれば、24年度業績は一転減益決算となる可能性もある。23年のような大幅上方修正が相次ぐという状況は考えづらく、良くて横ばい、減益に転じる可能性も指摘しておきたい。

日系BRVの本格投入はまだ先

 自動車市場は電動化により大きな変革期を迎えていると指摘されるが、筆者はBEV(バッテリー方式電気自動車)は、電動化の特効薬ではないと考えている。実際、足元のBEV販売数は世界各地で伸び悩んでおり、各社のBEV関連設備投資も、米ゼネラル・モーターズ(GM)、米フォード・モーター、独フォルクスワーゲンは相次いで縮小、凍結している。一時期、市場の80%以上をBEVが占めたノルウェー、同じく30%以上を占めたスウェーデンも、昨年から今年にかけて主に財源不足の問題で、BEV向け補助金や減税策をカットしており、販売の勢いが急速に弱っている。

 つまり、今までのBEV販売は、各国政府が強制的に設定した補助金で買わせていただけで、補助金がなくなった途端に販売にブレーキがかかるというのが実情だ。欧州委員会はBEVを急速に普及させるといっておきながら、合成燃料も容認するなどエンジン車の生き残りを模索。…

残り1448文字(全文2648文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

5月14日・21日合併号

ストップ!人口半減16 「自立持続可能」は全国65自治体 個性伸ばす「開成町」「忍野村」■荒木涼子/村田晋一郎19 地方の活路 カギは「多極集住」と高品質観光業 「よそ者・若者・ばか者」を生かせ■冨山和彦20 「人口減」のウソを斬る 地方消失の真因は若年女性の流出■天野馨南子25 労働力不足 203 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事