経済・企業

国策ファウンドリー「ラピダス」の危うさ 設計や後工程のリソース不足も懸念 豊崎禎久

千歳工場起工式で鍬入れを行う小池淳義ラピダス社長(2023年9月1日)
千歳工場起工式で鍬入れを行う小池淳義ラピダス社長(2023年9月1日)

 国策半導体企業ラピダスは一足飛びに先端半導体の生産を目指すが、5兆円以上の投資回収は容易ではない。

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 日の丸半導体復活を目指す国策会社「ラピダス」が、2025年の試作開始を目指して、北海道で千歳工場の建設を進めている。しかし、その前途は限りなく厳しいだろう。

 ラピダスにはまず製造技術の問題がある。日本国内の先端プロセス技術製造は45ナノメートル(ナノは10億分の1)プロセスで終了し、以降は日本の半導体メーカーは台湾TSMCなどのファウンドリー(製造受託企業)に製造を委託してきた。ラピダスは最先端製造技術を日本に回帰させ、なおかつ海外ファウンドリーと伍(ご)していくために、次世代の2ナノメートルプロセスの製造を目指している。

 45ナノメートルから2ナノメートルまで一気にジャンプアップするために、ラピダスは米IBMと協業し、IBMが開発するGAA(ゲート・オール・アラウンド)と呼ばれる技術を採用する予定だ。そのため、ラピダスは技術者を米国のIBMに派遣し、技術の共同開発と習得を進めている。ラピダスの命運はIBMが握っているが、問題はIBMに量産の実績がないことだ。仮にラピダスがIBMとの協業で2ナノメートルプロセス技術を開発できたとしても、使い物にならないのではないかとの見方もある。

 IBMは過去、ソニーとゲーム機プレイステーション3用のCPU(中央演算処理装置)「Cell」開発で先端ロジック(論理回路)の立ち上げに失敗した。さらに、主力工場も大手ファウンドリーの米グローバルファウンドリーズに売却し、デバイス製造からは撤退した。韓国サムスン電子のファウンドリーはIBMの先端プロセスを活用しているが、サムスン電子のファウンドリービジネスは拡大できていない。

見えない顧客、製品

 次の問題は、経営陣が語る展望からは、具体的な顧客や最終製品が見えてこないことだ。ラピダスは顧客から注文を受けて製品を製造するファウンドリーであり、顧客あってこそのビジネスとなる。しかし、ラピダスからはどのような顧客から受注し、どのような最終製品向けに半導体を製造していくかという展望が見えない。

 ラピダスは23年度中に、米シリコンバレーに営業拠点を開設することを表明しているが、実績のないラピダスに製造を委託するメーカーが現れるとは考えにくい。ラピダスは今年11月…

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