経済・企業 大阪IRを問う
㊦ギャンブル依存症の危険性 専門家は対策実効性に疑問 木下功
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巨額の経済効果の実現性が揺らぎ、軟弱地盤の改良費の底が見えない大阪のカジノを含む統合型リゾート施設(IR)。大阪府民が拒否反応を示すギャンブル依存症の対策も実効性に疑問符が付く。
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米カジノ大手MGMリゾーツ・インターナショナル日本法人とオリックスを中核株主とする事業者「大阪IR」の収支計画では、年間売り上げ約5200億円の8割、4200億円がゲーミングとされている。つまり、IRの収益の大半は来場した顧客がカジノで失う「負け分」だ。
では、どれほどギャンブル依存症患者は増えるのか。ヒントは2022年3月の大阪市議会にある。参考人として呼ばれた大阪IR社長でMGM日本法人のエドワード・バウワーズCEOは「ギャンブル依存症の問題を抱えているかもしれない約2%のお客様に、実際に問題が起きないよう、サポートする取り組みに強くコミットしてきた」と述べている。
計画ではIR区域への年間来場者数は約2000万人で、うち1400万人を国内客と見込んでいる。カジノ施設の年間来場者数は、2021年12月公表の区域整備計画案では約1600万人となっている。
2022年7月、市民団体「カジノの是非は府民が決める 住民投票をもとめる会」がIR誘致の是非を問う住民投票を呼びかけ、府民から21万134筆の署名を集めた。有効署名は、直接請求に必要な府内有権者数の50分の1(約14万6000人)を大きく上回る19万2773筆。IR誘致に必要な府民の合意形成が不十分なことを可視化したが、府議会に提出された条例案は反対多数で否決された。府議会では、ギャンブル依存症の父親を持った府民が「1人がギャンブル依存症になると、その子や親戚まで不幸になる損失を考えていない」と陳述している。
オンラインカジノ
「精神的におかしくなっていた。怒りっぽくなり、涙もすぐ出る。負けると死にたくなるが、次の日、起きた時には今日はいけるんじゃないかと思ってしまう」と、ギャンブル漬けだった生活を振り返るのは東京都在住の会社員の男性(36)だ。
パチンコ、競馬、競輪、オートレースと一通りのギャンブルに手を出した。「パチンコは負けても5万、10万円、競馬は自分の財布、銀行口座まで使う」とするが、最も恐ろしいのはオンラインカジノだと強調する。新型コロナ禍でオンラインギャンブルに手を出すようになり、「競馬などすべてオンラインでするようになった。中でも(数秒で勝敗が決まる)オンラインカジノはスピードが違う。1日300万円負けたこともある。勝ったとしてもギャンブルに使うだけ、生産性はない」と悔やむ。
男性も最初は給料の範囲内で賭けていたが、ギャンブルの資金を消費者金融で借りるようになる。親や友人にも借り、借金総額は2000万円近くあったという。「普通じゃなくなっていて我慢できなくなる…
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週刊エコノミスト
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