ドイツは再び“欧州の病人”になるのか 2年連続マイナス成長の危機 田中理
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独り勝ちも今は昔。ドイツは再び「欧州の病人」に成り下がり、厳しい状況が続く。
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2023年は日本の国内総生産(GDP)がドイツに抜かれ、世界第4位に転落することが話題となった。日本とドイツは勤勉な国民性、ものづくりの伝統、技術・輸出立国などの共通点も多い。かつて東西ドイツ統一後の高失業や構造不況に苦しんだドイツは、「欧州の病人」と呼ばれていた。その後、シュレーダー政権時代の労働市場改革などが実を結び、欧州の雄として奇跡の復活に成功した。
00年代前半に10%を超えていた失業率は、コロナパンデミック(世界的大流行)危機時に一時的に上昇したが、今は5%台の歴史的な低水準にある。近隣の欧州諸国や成長著しい中国向けの輸出を拡大し、16年には日本、中国を抜き世界最大の経常黒字国となった。こうした復活劇を受け、欧州内では「ドイツの独り勝ち」を問題視する声が浮上し、日本では「ドイツの復活に学ぶべき」といった論調が目立つようになった。
停滞する構造改革
繁栄が永遠に続くはずはなく、ドイツに再び逆風が吹いている。新型コロナウイルスの感染拡大が一服した後も、ドイツ景気は製造業部門を中心に低空飛行を続けている(図1)。ドイツの実質GDPは、パンデミック前と比べて0.3%しか増えていない。23年は主要先進国で唯一のマイナス成長が見込まれている。製造業部門の比重や輸出依存度が高いドイツの経済パフォーマンスは、世界の景気循環に左右されやすい。世界的な物価高や利上げによる景気停滞の余韻が広がるなか、ドイツ景気は循環的に下押しされている。
だが、景気低迷の原因はそれだけではない。シュレーダー改革以降、ドイツでは構造改革が停滞している。煩雑な行政手続き、デジタル化対応の遅れ、不十分な産業の新陳代謝、高齢化などの問題が長年指摘されてきた。
ロシアへのエネルギー依存、中国への成長依存がドイツ経済の新たな重しとなっている。東西冷戦終結後のドイツは、経済関係の強化を通じてロシアや中国などの変容を促す「通商による変化」を外交政策の基本方針に据えてきた。ドイツとロシアはバルト海を通るガスパイプライン「ノルドストリーム」で結ばれ、ウクライナ危機以前のドイツは、ロシアにエネルギー供給の多くを依存してきた。
ウクライナ侵攻後は、ロシア産の石油・石炭の禁輸措置を発動したほか、ロシアによる欧州向けのガス供給縮小を受け、ドイツはロシア産化石燃料依存脱却を急ピッチで進めてきた。再生可能エネルギーの普及を促進するとともに、代替エネルギー源として割高な液化天然ガス(LNG)輸入を大幅に拡大した結果、ドイツのエネルギー価格は大幅に上昇している。資源価格の高騰が一服した後も、ドイツの産業用エネルギー価格は、危機前の水準を上回っている。安価なロシア産化石燃料を使って高付加価値製品を製造し…
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週刊エコノミスト
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