既にきな臭いパリ五輪 真価が問われる「平和の祭典」 玉木正之
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セーヌ川で行う予定のパリ五輪開会式や各競技は安全に実施できるのか。「分断と対立の時代」を乗り越える知恵が求められている。
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2024年の7月26日から8月11日まで、パリで夏季オリンピックが開催される。続けて8月28日から9月8日までがパリ・パラリンピックとなる。近代オリンピックを創始したクーベルタン男爵の母国フランスでは100年ぶり3度目の開催で、大いに盛り上がることも期待された。だが、ロシアのウクライナへの軍事侵攻が3年目を迎えて終結の兆しが見えず、イスラム組織ハマスによるイスラエル攻撃と、その報復としてのイスラエルのパレスチナ・ガザ地区への侵攻で、世界はオリンピックどころではない状況になってしまった。
はたしてパリ五輪は無事に開催できるのだろうか?
心配なのは、開会式だ。パリ五輪の開会式では、選手たちはセーヌ川を東から西へ、美しいパリの街並みの真ん中を、大火災からよみがえったノートルダム寺院などを眺めながらエッフェル塔近くのイエナ橋まで、多くの船に分乗して行進するのだ。長さ約6キロのセーヌ川両岸や、80台の巨大スクリーンが設置されたパブリックビューイング会場に、60万人以上のパリ市民や観光客が集まるアイデアは素晴らしい。しかし、テロ対策は大丈夫か。
ロンドン五輪のときはテムズ川に配置された英海軍の駆逐艦が警備にあたり、東京大会でも国際オリンピック委員会(IOC)は、東京湾に海上自衛隊の護衛艦の出動を要請したが、幸い新型コロナの大流行で、その必要はなくなった。
「平和の祭典」の舞台に軍隊はふさわしくない。だが、23年12月にはアラビア語を叫ぶ男がドイツ人観光客ら3人をエッフェル塔近くで死傷させる事件が起きた。その約2カ月前にはチェチェン系の男による市中テロも発生した。そうした状況を受けて、エッフェル塔近くのトロカデロ広場で予定されていた閉会式は、1998年サッカーワールドカップ決勝も行われた競技場のスタッド・ド・フランスに変更された。
ウクライナ開催の主張
しかし、そうした「テロ対策」よりもオリンピックを主催するIOCには、他にやらねばならないことがあるのではないだろうか。それは、オリンピックが何のために存在しているのか、という原点に立ち返ることだ。
クーベルタンは母国フランスが普仏戦争(1870〜71年)に敗れたあと、国内に沸き上がるプロシア(現ドイツ)への復讐の声を抑え、スポーツによる世界平和の実現を目指し、近代オリンピックの創設を提唱したのだった。
近年のオリンピックは規模の肥大化とともに、金権主義ともいわれる商業…
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週刊エコノミスト
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