米FOMC新メンバーの“ハト派”度が24年の利下げシフトを後押し 小野亮
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急進するインフレに後れを取った高速引き締めも最終局面に入った。注目される「次の一手」を探る。
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2024年の米金融政策は、2年にわたって続いてきたインフレとの戦いの最終ラウンドに入る。
40年ぶりの高インフレに後れを取った米連邦公開市場委員会(FOMC)は、22年3月の利上げを皮切りに、2回の0.5%ポイントの利上げと、4回の0.75%ポイントの利上げを含む、計5.25%ポイントという大幅な利上げを行ってきた。この間、個人消費支出デフレーターで測ったコアインフレ率は、ピーク時には前年比5.6%(22年2月)まで加速したが、23年終盤には4%を割り込むところまで減速した。FOMCの目線では、インフレ期待は安定している。
米景気はトレンドを上回るペースで拡大を続けたが、米労働市場からは異常なほどの逼迫(ひっぱく)度が消えており、普通の「売り手市場」に変わりつつある。こうしたインフレを巡る諸状況の改善と、政策金利がすでに相当程度高いことを踏まえて、FOMCの政策アジェンダは23年を通じて変化した。「追加利上げの是非」から「どれだけ引き締めを維持するか」へのシフトである。
投票メンバー入れ替え
24年の米金融政策は政策金利を高めに維持しながら、引き締めによる景気・雇用への下押し度合いと、インフレの減速度合いを両にらみするものになる。
インフレの持続的な低下が続けば、FOMCは24年春にも最初の利下げに踏み切るだろう。ただし、物価目標の2%には程遠く、インフレとインフレ期待の双方に上振れリスクがくすぶることから、利下げ幅は小幅にとどまり、年間を通じた利下げペースも緩慢だろう。
金融政策運営上の課題はコミュニケーションである。利下げへの転換が、市場金利・株価・為替などの変化を通じて金融コンディションの過度な緩和につながれば、経済活動を刺激しインフレ圧力を再燃させる恐れがある。そうしたリスクに配慮しFOMCは、インフレの上振れリスクを警戒し続け、必要があれば利上げ再開も辞さない姿勢を維持するとみられる。
なお市場予想に反し、引き締めの効果が強く表れ、米国経済が景気後退入りする場合、そのタイミングは年前半と予想される。景気後退が利下げを決断するきっかけになるのは言うまでもないだろう。
FOMCでの投票メンバーの入れ替わりは、24年の利下げシフトを後押ししそうだ。FOMCでは毎年、投票メンバーの一部を構成する地区連銀総裁の4人が交代する仕組みとなっている。
23年はグールズビー(シカゴ)、ハーカー(フィラデルフィア)、ローガン(ダラス)、カシュカリ(ミネアポリス)総裁らが投票メンバーとなっていた。24年にはボスティック(アトランタ)、デイリー(サンフランシスコ)、バーキン(リッチモンド)、メスター(クリーブランド)総裁に投票権が回ってくる。(以上、括弧内は地区連銀名)
交代する総裁らのハト派、中道派、タカ派の構成は、1・1・2と変わらない。しかし、後述するチャットGPTにグループとしての発言内容を分析させてみると、24年組はハト派寄り、という興味深い結果が得られる。
高成長とインフレ改善が併存する謎
大幅な引き締めにもかかわらず、米国経済がこれまで景気後退を回避できたのは、財政支援の下で米家計が潤沢なキャッシュ(虎の子)を保有し、…
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週刊エコノミスト
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