国際・政治

インタビュー「骨太のエネルギー政策示せ」今井尚哉・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 安倍晋三元首相の側近で、40年以上にわたりエネルギー政策を立案した首相官邸のキーパーソンに中東政策などを聞いた。(聞き手=中西拓司/浜田健太郎/濱條元保・編集部)

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── イスラエルとハマスの武力衝突をどうみているか?

■イスラエルとパレスチナによる「2国家共存」は非常に難しいが、これしか問題解決の道はない。ガザの病院では赤ちゃんが施設の燃料切れで生命の危機にさらされているが、日本政府はどれだけの外交努力をしているのか。中東問題に関して、やや傍観気味になっていないか。故安倍晋三首相なら居ても立ってもいられず、あらゆる各国首脳に電話していたのではないか。日本は、命を何よりも重視する平和人道外交など独自の政策がある。日本ならではの外交をできているか問うてほしい。

── 日本はどう対応すべきか?

■中東でいえば、日本は石油だけではなく、精神的なつながりが非常に深い。安倍政権時代はサウジアラビアともイランとも深く付き合ったが、日本の精神文化や価値観、誇り、中庸の精神などへの尊敬の念が中東諸国の根底にある。一方、日本は多様性を重んじる国であり、イスラム教とその文化を理解する素地を持っている。欧米とは異なるこうしたスタンスを外交に生かしてほしい。とはいえ日本の首相は、就任1年目は米国外交、2年目は中韓などアジア外交に追われる。中東外交に本格的に着手できるのは3年目以降で、長期政権でないとなかなか取り組めない。安倍氏が提唱した「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」の展開には長期政権であることが必須だ。

米国に「もの言う」日本

── 対米追随との批判もある。

■米英独仏中露の6カ国とイランによる核合意(2015年)の過程には、親イランの日本は入れなかったが、欧州が日本を排除した背景がある。欧州の言い分を一言でいえば「必ず米国に1票入れる国を加えても仕方がない」ことに尽きる。長年、日本の国連常任理事国入りが課題になっているが、実現しない原因もここにある。この状況なら日本は米国に反対するだろう、といった存在感や独自性があって初めて「日本にも常任理事国に入ってほしい」という機運が生まれる。今の状況なら、いくら常任理事国入りを求めたところで、中露の反対で終わる。もちろん、戦後の日本を育てたのは米国であり、自由や民主主義、人権、法の支配といった基本的価値観を共有する米国関係が日本外交の基軸になるのは当然だ。米国が日本で育てた最大のものは自由貿易だ。その米国が中国への先端半導体輸出規制など、自由貿易を放棄しているなら、恩返しの意味でも「米国は自由貿易の旗頭であってほしい」といさめるべきだ。

── イスラエル、ハマスの対立が、イランに飛び火する恐れは?

■(親イラン組織の)ヒズボラが暴発して、それに対抗するイスラエルの反撃が本格化し、イランが介入せざるを得なくなる──というシナリオがあり得る。ただ、石油の話でいえばイランが(エネルギー供給の大動脈となる)ホルムズ海峡を封鎖したことは過去に一度もない。それは彼らが原油などの供給を絶対に止め…

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