米国景気のメインシナリオは“軟着陸” 貯蓄減やローン利上げでも家計は底堅く 前田和孝
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米国景気は政策金利の引き下げ余地や家計の健全性から軟着陸予想が有力だ。
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2022年3月の米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ開始から1年半以上が経過した。この間、政策金利は5%以上引き上げられたが、米国景気の勢いは衰えていない。23年7~9月期の実質国内総生産(GDP)成長率は前期比年率5.2%増と、前期の同2.1%増から伸びが大幅に拡大した。これで2%程度とされる潜在成長率を5四半期連続で上回ったことになる。7~9月期のGDPを需要項目別に見ると、個人消費の寄与がプラス2.44%ポイントとなっており、これだけでGDPの伸びの半分近くを説明できる。個人消費のプラス寄与は6四半期連続で、個人消費の力強さが米国景気を下支えする構図が続いている。
ここまで個人消費が堅調に推移してきた背景には、コロナ禍で支給された給付金などで積み上がった家計の過剰貯蓄、好調な労働市場、学生ローンの返済猶予、株高に伴う資産効果などがあった。特に、労働市場は過熱感こそ失われているものの、ここまで底堅い推移が続いている。11月の雇用統計において、非農業部門雇用者数の伸びは2年11カ月連続でプラスとなっているほか、失業率も3.7%と依然として低位である。
過剰貯蓄は枯渇
もっとも、ここにきて先行きの個人消費には不安材料も増えてきている。まず過剰貯蓄だが、サンフランシスコ連銀による最新の試算では、ピーク時の約2.1兆ドル(約308兆円、21年8月)から約0.4兆ドル(23年9月)まで取り崩しが進み、24年前半には枯渇する見込みである。米国家計はここまで過剰貯蓄を取り崩しつつ消費を行ってきたが、10月の貯蓄率は3.8%と、コロナ禍前を下回る水準で推移している。
FRBの利上げに伴う各種ローン金利上昇の影響も表れ始めている。ニューヨーク連銀の調査によれば、与信獲得が1年前との比較で、「非常に困難」もしくは「やや困難」になったと回答した家計の割合は11月に計57.67%と、高止まりが続いている。クレジットカードローンの金利は20%を上回っており、延滞率も高まってきた。23年7~9月期に、新たにクレジットカードローンの支払いが90日以上遅れた割合は借入残高の5.78%と、約12年ぶりの高水準に上っている。
23年10月以降は、これに学生ローン返済再開の影響が加わっている。連邦政府が提供する学生ローンの利用者の債務総額は約1.6兆ドル(約235兆円)まで膨らんでおり、これは名目GDPの約6%に相当する。学生ローンが家計債務全体に占める割合は約9.2%と、クレジットカードローンよりも多い。
返済再開に伴って収入を得る必要が生じることから、利用者数の多い20代、30代で労働参加が増えるとみる向きもあるが、これらの世代の労働参加率はおおむねコロナ禍前の水準まで…
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週刊エコノミスト
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