取り崩しながら80歳まで運用 リスク性資産は円滑に圧縮を 野尻哲史
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退職後の資産運用には、現役時代とは異なる戦略が求められる。
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NISA(少額投資非課税制度)は、英国ISA(個人貯蓄口座)を参考に2014年に導入されたが、今回の改正で英国ISAと遜色のない素晴らしい制度になった。資産形成世代にとっては、使いやすい、そして使う意味のある制度になったといっていいだろう。ただ、既に資産を作り上げ、これからその資産を使って退職後の生活の糧にしようとするシニア世代には、資産形成世代とは違った課題があり、それに伴った戦略が必要になる。
危険な「退職金デビュー」
まず考えておきたいのが、シニア世代はいつまで運用を続けるべきかという投資に対する基本的な姿勢である。筆者は、資産を作り上げる現役世代を「資産形成世代」と称し、その資産を取り崩す退職後の世代を「資産活用世代」と命名している。さらに資産活用世代も、現役時代から運用している有価証券を退職後に少しずつ取り崩す「使いながら運用する」時代を経て、80歳前後には運用からも撤退する「使うだけの時代」に入ると考えている。その年齢は人によって異なるが、資産運用をあと何年続けるかという視点でみると、60代であってもまだ20年くらいの期間があると考えるべきだろう。
その一方で、退職金で投資デビューしようと考えている人も多いだろう。筆者は原則それを勧めない。というのも、決まった収入のある現役時代は、保有資産の価格変動はそれほど重たく感じないが、実際に退職してみると価格変動の恐怖感は現役時代よりも強まったと感じる。投資の価格変動が自分の感情面にどれくらい影響するかを現役時代に知らずに、まとまった資金を投資に振り向けるのはかなり危険な賭けに出るように映る。本来ならば、現役時代から積立投資で少額でも投資を経験しておくべきだっただろう。
それでも退職後に投資を始めたいと思うのであれば、投資する総額をあらかじめ決めておいて、それを何回かに分けて投資する「分割投資」を検討すべきだろう。毎月、毎四半期、毎年に分けて数年間に投資を分割する方法だ。
現役時代からの資産運用でも、退職金の分割投資でも、新NISAを使った非課税投資は有効だ。ただ注意点がある。新NISAは従来のNISAとは完全に別制度である。非課税期間が20年のつみたてNISAを活用する資産形成世代は、口座にある資産をそのまま残りの年数だけ非課税で運用できるため、別制度であることはメリットといえる。新NISAのサブ口座的な見方ができるわけだ。
しかし資産活用世代は、既に一般NISAを活用している人が多いだろう。現在の一般NISAから資金を新NISAに自動で移管できないため、23年末で非課税期間が終了した資産を一度売却して、新NISAで購入し直すという手間が必要になる。手作業による資金の移管である。その際には、販売手数料…
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週刊エコノミスト
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