真剣勝負にして抱腹絶倒の大攻防! 塀の中の給食事情を公開 高部知子
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昨年末、本の整理をした。これは私にとって年末の大掃除前に行う風物詩。本に積もった1年分のほこりも一気に払えて気分が良くなる。
それにしても、本の価値が下がったと思う。昔、本は「質草」になり、父は何度かそれで食いつないだと話してくれた。私が幼い頃から本に関してだけは値段を一切聞かず、欲しいといったものを全て買ってくれた父だったが、それは将来の資産形成のつもりだったのかしら……。今回の整理で比較的きれいな本や専門書などは古書店に引き取ってもらったが、私は本を資料とするため、書き込みながら読むことも多い。そうした本は高い本でも「紙くず」だ。これだけでゴミ回収の人に申し訳ないほど大量に出すことになる。紙も無駄になり、心も痛む。なので最近は本に書き込む習慣をやめた。
本の価値は確かに下がったかもしれないが、逆に考えれば、自分が体験できないような貴重なドキュメントを安価に気軽に読めるともいえる。今回出会った本が私にはそう思えた。『めざせ! ムショラン三ツ星 刑務所栄養士、今日も受刑者とクサくないメシ作ります』(黒栁桂子著、朝日新聞出版、1650円)。まずタイトルを読んだ瞬間に「面白そうだ」と思う。「ムショラン」という単語は著者が思いつき、人に話すとウケるので気に入って使っているというが、こんなタイトルを考えるなんて楽しく前向きな人なのではないか。明るい職場ではないだろうと勝手に想像してしまうが、著者のユーモアによって、読み手側も明るく読み進めていくことができるのだ。
内容は本書の帯に書かれている通り「コロッケ爆発」「鍋から火柱」「調理経験ゼロの受刑者たちが奮闘するメシ作り実録」などなど。炊事を通して職員と受刑者が経験するさまざまなエピソードが紹介されている。例えばどうやって全受刑者の分量を「平等にするか」。その工夫が面白い。おかずの量が不均等になり、受刑者間で争いの種とならな…
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週刊エコノミスト
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