国際・政治

COP28で飛び出した米国の「原発3倍」宣言の背景とは 小林祐喜

濃縮ウランの遠心分離機で大きなシェアを持つ露電子力企業ロスアトム Bloomberg
濃縮ウランの遠心分離機で大きなシェアを持つ露電子力企業ロスアトム Bloomberg

 米国は原子力産業が競争力を失い、現在も低濃縮ウランの国内需要の2割をロシアに依存している。

ロシアが支配する原発用ウラン市場

 アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで2023年11月末から12月中旬にかけて開催された国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)で、米政府は「2050年までに世界全体で原子力発電の設備容量を3倍にする目標に向けて協力する」と宣言し、日米を含む22カ国が参加したと発表した。宣言は世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて1.5度に抑えるためとしている。

 地球温暖化対策を前面に打ち出しているものの、唐突感は否めない。この裏には、ウクライナへの侵攻による各種制裁後も、国際原子力市場を支配するロシアに対する焦りが透けて見える。

 核燃料製造の初期工程であるウラン濃縮では、ロシアは世界シェアの約50%を占めており、欧州連合(EU)諸国、米国ともロシアからのウラン供給に依存している。そのため、西側諸国は22年2月のロシアのウクライナ侵攻後も、ロシアの原子力分野については制裁に踏み切れていない。加えて、「次世代炉」と総称される小型モジュール炉(SMR)や高速増殖炉用の燃料加工は、現在、世界で普及している通常の原子炉用燃料に比べて特殊な工程が必要で、これもロシア企業が市場を独占している。

 米国は、現状のままでは核燃料供給を外交の武器にされると警戒を強め、次世代炉用のウラン濃縮を手掛ける西側諸国を中心とした民間企業を公募し、助成金を支給するなど、ロシア依存の脱却を図る方策を開始している。

 原子力技術の民間利用でも、ウラン濃縮の工程が欠かせない。天然ウランは、核分裂して膨大な熱エネルギーを放出する「ウラン235」の含有量がわずか0.7%で、残りの大部分は核分裂しにくい「ウラン238」だ。そのため、燃料として使うには、ウラン235の割合を3~5%にまで濃縮する加工が必要である。このウラン濃縮において、ロシアの国営原子力企業「ロスアトム」系の企業が50%近い世界シェアを占めている(図)。

ロスアトムがシェア拡大

 世界におけるウラン濃縮は00年代前半まで、米国や英国・ドイツ・オランダの連合企業体「ウレンコ」が主導してきた。しかし、ロシアはウラン235をより効率的に抽出する手法を開発してコスト削減に成功し、10年以降、ロスアトムが一気に世界シェアを拡大した。

 表は図を工場別生産量に置き換えたものである。ウレンコ製の遠心分離機が欧州から米国にかけて分布しているものの、生産量ではロスアトムが上回り、ロシアがウラン濃縮の主導権を握っているのが分かる。さらに、次世代炉にはウラン235の割合を20%弱にまで高めた「高純度低濃縮ウラン」(HALEU)を使用した核燃料が必要である。このHALEUを手がけ、商用販売しているのは、現在は世界でロスアトム系の1社だけだ。

 また、12~21年の10年間に世界各国に輸出された原子炉のうち60%超がロシア製だ。これらの事実から、西側諸国が原子力分野におけるロシアの市場支配力に、現状の技術力で対抗するのは極めて困難である。

 米国…

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