国際・政治

北朝鮮の武器輸出は一貫して反米が目的 外貨稼ぎは二の次 宮本悟

 世界有数の武器生産国である北朝鮮。武器輸出は外貨稼ぎが目的と語られることも多いが、それは二の次でしかない。

疑惑の対露輸出も米国をウクライナ支援で疲弊させるため

 北朝鮮によるロシアへの武器輸出疑惑が注目を集めている。ことの発端は、2022年秋。9月7日に米ホワイトハウスのカービー国家安全保障会議戦略広報調整官が、ロシアがウクライナとの戦闘継続のために北朝鮮から数百万発のロケットと砲弾を購入する過程にあると発表したことに始まる。対して北朝鮮国防省は同21日、ロシアに武器や弾薬を輸出したことはなく、今後もそのような計画はないと言明した。その後も米国などが繰り返し疑惑を指摘するも、北朝鮮とロシアが否定する展開が続いている。

 カービー氏は11月2日にも、北朝鮮がロシアに対して砲弾を中東やアフリカ経由で供給していることを示す情報があると発言したが、同4日にマツェゴラ駐朝ロシア大使、7日には北朝鮮国防省も同様にこれを否定した。日本では東京新聞の城内康伸編集委員が12月22日、北朝鮮が11月20日にロシアへ砲弾など軍需物資を鉄道で輸送していたと報じ、カービー氏も東京新聞の報道日と同日、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」が北朝鮮から武器を購入したと発表した。

 北朝鮮の最高指導者である金正恩(キムジョンウン)総書記は23年9月12~17日、軍幹部を伴ってロシア極東を訪問し、ロシアのプーチン大統領と会談したことで、北朝鮮によるロシアへの武器輸出についてさらに懸念が高まった。カービー氏は10月13日、北朝鮮が9~10月にコンテナ1000基以上の軍事装備品を引き渡したと発表したのに対し、ロシア大統領府のペスコフ報道官は同17日、北朝鮮がロシアに武器を供与しているとの主張について、証拠に基づいていないとして否定した。

 現在までに北朝鮮もロシアも、北朝鮮がロシアに武器を輸出したとの西側の一連の報道をすべて否定している。ロシアが北朝鮮から武器を調達したとなると、これは北朝鮮の武器輸出などを禁じた06年10月以来の一連の国連安保理決議に違反することになる。しかも、これらの国連安保理決議はロシアも賛成してきたものだ。そのため、ロシアが北朝鮮から武器を調達したとしても、ロシアがそれを認めるのは難しいだろう。国連安保理決議を拒否している北朝鮮も、ロシアの立場を考慮して、それを認めるとは考えにくい。

第4次中東戦争で脚光

 それでもなお、北朝鮮がロシアに武器を輸出することはありうる。22年2月からのロシアによるウクライナ侵攻では、北朝鮮は反米・親露路線を徹底しているからだ。侵攻以前においては、過去の記録をさかのぼっても、北朝鮮によるロシアへの武器輸出は確認されていない。しかし、21年1月に開催された北朝鮮の支配政党である朝鮮労働党の第8回党大会で、金総書記は反米を指針とする対外活動を推し進めるとしながら、ロシアを伝統的な友好国として語っていた。

 北朝鮮は22年3月2日に採択された国連総会でのロシア非難決議でも、棄権ではなく反対した5カ国の一つとなった。また、北朝鮮はロシア軍が占領しているウクライナ東…

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