金上昇の“うねり”に潜むドル信認の希薄化と管理通貨制度の“賞味期限切れ” 亀井幸一郎
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ドルと金の交換を停止したニクソン・ショックから50年以上。管理通貨制度の賞味期限が試されているかのようだ。
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金価格は昨年12月、ドル建てで史上最高値を更新し、米ニューヨーク金先物価格は同年末、終値ベースで1トロイオンス(約31.1035グラム)=2071.80ドルで終了した。年間ベースで245.6ドル、13.4%もの大きな上昇だ。取引時間中と終値が史上最高値を更新したのはいずれも12月だった。今年はどう見通すべきか。短期的な手掛かり材料として注目すべきことは2点ある。
一つ目は、米国の金融政策だ。米連邦準備制度理事会(FRB)は2022年3月以降、歴史的なペースで金融引き締め策を取り、インフレ率は鈍化してきた。昨年末、ニューヨーク金先物価格を最高値に押し上げた買い手掛かりは、FRBの利下げ転換が視野に入ったことに間違いない。
二つ目は、地政学リスクだ。今年2月24日で2周年となるウクライナ戦争▽長期化と戦域拡大が懸念されるイスラエル・ガザ戦争▽台湾海峡の緊張激化を含む米中関係の悪化▽11月の米大統領選に向けた政治的混乱▽米政府の財政問題にも波及しうる米国の政治的分断──が代表例だろう。緊張が高まるタイミングで、世界の人々は安全資産として認識する金の需要を高め、高値追いにつながると見ている。
紙幣は中央銀行が発行量を野放図に増やせるが、金はそうはいかない。FRBがドル紙幣の大量増刷を続ける中、金の価値は相対的に高くなる一方だ。金価格は年内に1トロイオンス=2300ドル、2500ドルといったレベルに達するだろう。
ただし、これらの押し上げ要因は、金価格の長期的な上昇の中で繰り返される短期サイクルの一つにすぎない。1トロイオンス=2500ドルといった水準にとどまらず、長期的にはよりスケールの大きな上昇となると考えられる。そう考える背景にあるのは、基軸通貨ドルの地位にとどまらず、通貨制度自体が制度疲労を起こしていることだ。価値の基盤や永続性への疑問が、代替通貨としての金に向かわせる。
世界でそのような考えを共有する人が増えているからこそ、金需要はすでに高まっている。「うねり」とでも表現できる金の上昇トレンドが起きているのだ。
FRBの量的緩和契機
22年10月末、金市場では新興国の中銀による金の大量買いに注目が集まった。世界中の中銀による同年第3四半期(7~9月)の金購入が四半期としては過去最大(459トン)だったことが判明したのだ。第4四半期(10~12月)も382トンと予想外の規模が続き、通年で1082トンと史上最大規模に膨…
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週刊エコノミスト
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