見え始めた金鉱開発力の限界 “地上在庫”からの供給も頭打ち 小菅努
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価格高騰によって金を売却する人が減り、リサイクルも減少傾向が続く。供給量の確保が難しくなれば、一段と価格上昇する可能性もある。
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金価格がドル建てで過去最高値圏を推移している。その背景として、各国の投資家や中央銀行などの需要動向が注目されがちだが、金の供給動向も重要な役割を果たしている。供給能力を拡大できるかどうかは、金価格高騰の“陰の主役”とも評価できる。
ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の調べでは、2023年は金の総供給の75%に相当する3661トンが鉱山での新産金だった。残りの25%に相当する1237トンはリサイクルの形の供給だ(図1)。金は消費されても宝飾品や地金、コインなどの形で残り続け、消滅することはない。これを「地上在庫」と呼び、金需給や価格動向に応じてリサイクルの形で金供給に改めて組み込まれる。
中国が最大の産出国
鉱山生産は長期プロジェクトとして運用されるため、生産量を短期間で大きく変動させることは難しい。一方、リサイクルは比較的短時間で大きく変動する可能性がある。金の需給が緩和して価格が低迷するとリサイクル供給が減る一方、金の需給が引き締まって価格が高騰するとリサイクル供給が増える。地上在庫は金の需給と価格を安定させる調整弁としての機能を果たしているといえる。それにもかかわらず金価格が高騰しているのは、金供給の対応能力が限界に達しつつあることを強く示唆している。
貴金属調査会社メタルズ・フォーカスの調べでは、22年の金鉱山生産の上位5カ国は、1位が中国(375トン)、2位ロシア(325トン)、3位オーストラリア(314トン)、4位カナダ(195トン)、5位米国(173トン)──だった(図2)。金鉱脈は世界各地に分布し、大規模な供給途絶ショックが発生しづらいことが特徴といえる。
世界全体の生産量は過去10年で年3139トンから年3661トンへ17%増えた。その大部分が10年代前半に集中しており、近年は年3600トン前後で横ばいの傾向になっている。生産コストが高騰している影響もあるが、増産能力の限界が見え始めている地域が増えている。
中国は国内の旺盛な需要に応えるため、10年の351トンから16年の464トンまで増産したが、19年以降は年間400トン割れが続く。政府が金鉱山の開発を奨励し、鉱業技術の進歩…
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週刊エコノミスト
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