資源・エネルギー

日本で送電網への“ノンファーム接続”が始まって10カ月 トラブルなく再エネ導入拡大へ弾み 内藤克彦

送電網への公平なアクセスが電力改革の基本
送電網への公平なアクセスが電力改革の基本

 送電線に「空き」がないとして大量の再生可能エネルギーを門前払いしながら、深刻な電力不足も引き起こした日本の電力システムだが、ようやく大きく変化した。

発電網への公平なアクセスは電力自由化の基礎

 再生可能エネルギーなどの新規発電設備を新たな手法で送電網に接続する「ノンファーム接続」(日本版コネクト&マネージ)が、2023年4月1日から全国で導入された。欧米ではすでに1990年代から導入されており、再エネの拡大に大きく貢献している。日本も欧米に遅れること約30年。ようやく欧米の背中が見えてきた。

「ノンファーム接続」とは何か。簡単にいえば、送電網の「空き」が少ないと称して系統接続をさせなかった再エネの電気を有効に使う方法ともいえる。日本は世界有数の再エネのポテンシャルを持ちながら、その電気を有効に活用できていなかった。22年3月に深刻な電力不足が発生して、東京電力と東北電力管内に「電力需給逼迫(ひっぱく)警報」が出されたが、「空き容量」が少ないため大量の再エネ電気を送電網に接続せず、門前払いする状況が続いていた。

「ノンファーム接続」の仕組みを図に示す。従来の接続方法は、自社発電所の定格出力で計算して先着順に接続(先着優先)するので、送電網のキャパシティーは既存発電所だけで満杯となる。その後、定格出力ではなく、送電混雑時の最大潮流から“空き容量”を算出するよう改善されたが、既存の発電所で満杯となる点では同じだ。しかし、実際の送電網運用は、時々刻々と変化する電力需要に応じて発電設備の発電量も調整しているため、定格出力や最大潮流であらかじめ送電容量を確保することには意味がない。再エネを接続させて、電力需要に応じて出力調整することにより、再エネなど新規発電設備が発電する電気を、なるべく大量に利用しようという方法だ。

米国では90年代から

 米国は1990年代に入り、「分散型電源」(再エネや小規模火力発電設備など)が増えてくると、既存の電力会社が送電網への接続を拒否したり、差別的契約内容で接続を阻害するなどの事態が起きた。このため、米連邦エネルギー規制委員会(FERC)は96年、送電網の公平な利用のための制度改革、送電網の「オープンアクセス」を実施した。

 米国も改革前は日本と同じように、各発電所は送電線ルートを想定し(コントラクト・パス)、契約値・定格出力値に相当する送電網の「枠」(送電容量)を確保した上で送電していた。送電網は既存発電所の事前の「枠取り」で専有され、この「先着優先」組から電力が供給されていた。しかし、これでは新規発電設備が入る余地がなく、そこでFERCはまず「メリットオーダー方式」を導入した。これは電気の卸売価格が安い発電所から優先的に送電網に接続させる方法だ。

 この制度改革の議論の中で、ハーバード大学のウィリアム・ホーガン教授は、送電網接続の予約方法の改革を…

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