経済・企業 薬不足
薬価制度や品質不正のせいだけにできない薬不足の深刻さ 五十嵐中
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日本を覆う「薬不足」問題は需要の急増に対応できない供給網などさまざまな要因が複合的に絡み合っている。このままでは将来の薬不足をより深刻化させる。
「ドラッグラグ」どころか「ドラッグロス」まで顕在化
「薬がない」──。季節外れのインフルエンザや新型コロナウイルスの流行で、せき止めなどの風邪薬が調剤薬局で不足する事態が続いている。2020年以降、複数のジェネリック医薬品(後発薬)メーカーで品質不正問題が多発した。該当企業での製造停止に加え、他社の同種製品への需要が急増し、他社製品も供給不足に陥る……と連鎖的に拡大した。しかし、この不正問題とその連鎖だけが、長期の薬不足の原因ではない。
医薬品の製造には緻密な計画が必要で、急激な増産は難しい。ある企業の出荷停止を、他社の増産で即時フォローすることはできないのだ。加えて、薬の値段が年々引き下げられる日本独自の「薬価」制度や、販売側の事情による供給網の弱さなど、医薬品全体に関わる問題が複雑に絡み合っている。
作り手たる製薬企業の業界団体「日本製薬団体連合会」(日薬連)は、22年4月から医薬品の販売・供給状況を調査している。23年5~12月で「供給停止」と「限定出荷」を合わせると、全製品では22~26%だが、後発薬に絞ると10ポイントほど上昇し、32~36%で推移する(図)。供給不足が報じられるせき止め、解熱鎮痛剤領域は、発売後数十年が経過した医薬品も多く、その分薬価も安い。作ってももうけが少なく、もともと生産量は減少していたが、後発薬はなおさらだ。そこへ来ての需要増で供給が追いつかない。
23年5月と12月の調査で供給に制限がある医薬品数を比べると、「自社の事情」つまり行政処分などの製造停止が原因で限定出荷になっている医薬品数は全体では16%減、後発薬では31%減。一方、他社事情(=自社は処分などはなし)での限定出荷は全体で1%減、後発薬で12%減にとどまり、限定の解消すなわち供給の回復具合はやや鈍い。単なる製造再開(つまり自社事情の解消)よりも、増産の方が難しいことがうかがえる。
このアンケートは製薬企業から卸業者に向けた出荷状況に関するもので、現場の状況はさらに複雑だ。例えば、ドラッグストアチェーンの関係者によれば、22年後半は新型コロナウイルスのオミクロン株蔓延(まんえん)期で、カロナールなどの解熱鎮痛剤が払底した。
表は、22年1年間のカロナール200ミリグラム錠の疾患別使用割合だ。医療データサービス会社「日本システム技術」が複数の健康保険組合から寄せられた保険請求情報(入院、外来、調剤など)をまとめたデータベースから算出されている。
急性上気道炎、急性気管支炎などの風邪系の疾患を追い抜き、新型コロナによる使用が最も多い。OTC医薬品(処方箋なしで購入できる医薬品)でもあるカロナールの「買いだめ」なども発生し、…
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週刊エコノミスト
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