米中対立で日本が復活 年末4万4000円も 武者陵司
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米ウォール街には「FOMO」という言葉がある。「Fear of Missing Out」の略で、取り残されることへの不安という意味だ。今の日本の株式市場はまさにその状態に入りつつある。
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世界で最も値上がりした日本株の比率を高めようと焦る外国人投資家、新NISA(少額投資非課税制度)ブームで背中を押される個人、株価純資産倍率(PBR)の改善を求める金融庁、東証に押され自社株買いに走る企業、インフレ(物価上昇)の定着と金利上昇で日本国債の投資比率引き下げを余儀なくされる機関投資家など、全ての投資主体が日本株に向かってラッシュし始めている。
この日本株への熱狂は、10年前に始まっていてもおかしくなかった。2013年以降のアベノミクス時代に、日本企業と経済は大きく体質を改善させており、事業改革と新ビジネスモデルで企業利益率は2倍に拡大し、過去最高利益を更新し続けている。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用益は、108兆円と4倍に増え、税収は10年間で7割増えた。だが、こうした拡大した企業の利益と価値は、潤沢な内部留保として退蔵された。
米国が求める「強い日本」
なぜいま、日本株の熱狂が起きているのか。企業利益とバリュエーション(企業価値評価)の安さを必要条件とすれば、一方の十分条件が満たされたからだ。十分条件とは、米中対立から始まる一連の変化だ。かつて日本たたきをしていた米国が、「対中国デカップリング(経済分断)」のため、今度は「強い日本」を必要とし、そのための円安を容認するようになった。
米国を中心に脱中国の供給体制構築が進められ、国際分業が抜本的に作り変えられつつある。半導体、自動車、鉄鋼など、かつて日米が競い合っていた分野で、両国の産業協力体制が進んでいる。中国を代替できるハイテク製造業の産業集積を構築できる国は日本しかない。円高で海外に逃げた工場や資本、雇用が、円安で日本に戻りつつあり、企業収益と設備投資は空前の水準だ。
「最も安い国」になった日本に向かい、世界の需要が集まり始めており、円安で著しく割安になった影響で、日本企業の賃上げ余力は大きくなっている。大幅な円安の定着で円高が原因のデフレ時代は終わりつつある。
いまの好投資環境は、地政学環境の変化抜きには考えられない。この「地政学起点説」を疑う人もいると思うが、いまの半導体ブームは、全ての専門家が「日本の半導体産業はすでに終わっている」と確信していたところから始まっている。21年4月の菅義偉首相(当時)と米バイデン大統領の会談、自民党半導体戦略推進議連(会長・甘利明衆院議員)の立ち上げ、同年10月の台湾TSMCの熊本進出と政府の巨額補助、ラピダス創設と政府支援、IBM、IMEC(ベルギーの研究機関)の全面的な技術支援など、ベクトルがそろい過ぎている。
突然の円安も誰も予期できなかった。日米金利差拡大のタイミングではあったが、この円安幅の大きさは市場関係者の想像を超えていた。時あたかもドルヘッジコストが急上昇し、円先安観測が定着したが、これで日本の対米巨額黒字が続いているにもかかわらず、米財務省は為替監視リストから日本を除外した。こうした状況から明らかなのは、米国の筋書きで、日本の産業復活が進行しているということではないだろうか。
ドル1強
より大きな地政学…
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週刊エコノミスト
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