週刊エコノミスト Online書評

寄付という文化を通じて社会問題に関心が湧く 荻上チキ

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 あなたは、年にどれくらいの頻度で、どれくらいの金額を寄付しているだろうか。あるいは、「ここに寄付することに決めている」という団体はあるだろうか。人生で一度も寄付したことがない人は珍しいだろう。だが、寄付そのものについて深く考えた経験は格差がありそうだ。

『日本の寄付を科学する 利他のアカデミア入門』(坂本治也編著、明石書店、2750円)は、寄付文化そのものを、データや理論に基づいて整理していく一冊だ。(使わないと損をさせる、本末転倒な仕組みと化した)ふるさと納税を除けば、日本で1人が1年間に寄付する金額は、5614円であるという。寄付文化の総額は2兆円程度と決して少なくはないが、国際的に比較すると低調な部類だ。

 個人寄付の3分の1は、(お布施やさい銭などを含めた)宗教関係の寄付が占める。高所得な人ほど寄付をするが、1000万円以上の収入があっても、平均寄付金額は1万5000円ほど。これでは、公共活動を行うNGOなどは育ちにくい。

「日本人は親切だ」といった表現はよく聞くが、どのような条件で「親切さ」を測るかで結論は変わりそうだ。紹介されている「世界人助け指数」という国際比較では、「見知らぬ人を人助けした」経験は世界118位、「ボランティアに参加した」経験は世界83位であった。今後は、「日本人は親切である。人助け指数で、世界で118番目に位置するぐらいには」としたほうが正確かもしれない。なお、調査対象国は119カ国であるため、下から2番目である。

 なぜ、日本でこれほど寄付文化が低調なのか。まず、日本では慈善団体への信頼度が低い。どれくらいかというと、国会議員やマスメディアに次ぐくらいに、である。「お上」も「民間」も、公共セクターに対する信頼度が低いと、社会問題の解決力が停滞しそうだ。

 その他、社団法人やNPOに携わっているものとしては、めまいがしそうなデータが続く。だが…

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