狙いはノーベル平和賞? トランプ氏が狙う「ウクライナ和平」 渡部恒雄
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NATOの「リストラ」にも言及するトランプ氏が再選すれば、欧州、中東の安全保障体制に大きな影響を及ぼす可能性がある。
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大統領在任中、「米国第一主義」を掲げ、多国間協調を軽視してきたトランプ氏は、安全保障政策については「軍事費は米国の防衛に限定し、同盟国は米国にタダ乗りせずに自力で防衛すべきだ。費用のかかる駐留米軍はできるだけ撤退させたい」との考えが根底にある。もしトランプ氏が再選を果たしたら、その削減対象の最大のターゲットは北大西洋条約機構(NATO)の加盟国に駐留する米軍となるだろう。
トランプ氏は在任中の2020年7月、ドイツがNATO加盟国の軍事費の負担目標とされる国内総生産(GDP)比2%を達成していないことなどを理由に、駐独米軍の3分の1に当たる約1万2000人を削減する計画を発表した(バイデン政権が21年撤回)。
24年2月の選挙演説では、大統領在任中、NATO加盟国首脳に対して軍事費の負担を増やさない場合は「私はあなたたちを守らない。むしろ、ロシアが何でも好きなようにやっていいとけしかけるだろう」と伝えたと明かした。トランプ氏は在任中、NATOからの脱退にも言及したとされる。もし再選されれば、NATOを基軸にした欧州の安全保障政策が根底から覆されることも予想される。
プーチン氏と「取引」
トランプ氏がNATOからの撤退を示唆している背景には、ロシアのプーチン大統領との良好な関係がある。ロシアとウクライナとの戦争は膠着(こうちゃく)したまま3年目に突入した。そのウクライナを後ろから支えているのは欧米の軍事支援だが、曲がり角にきている。米連邦上院は、ウクライナ支援などを盛り込んだ緊急補正予算案を可決したが、下院のジョンソン議長(共和党)は難色を示しており、行方は不透明だ(24年2月現在)。下院が慎重姿勢を示す背景にはトランプ氏の存在がある。トランプ氏は「返済のあてもなく、外国への支援を認めるべきではない」と主張し、共和党の保守強硬派をたきつけているとされる。
もし大統領になったら、軍事支援打ち切りをウクライナへの脅しに使い、ロシアが有利な状況でゼレンスキー大統領を停戦交渉のテーブルに着かせる一方、NATOの駐留米軍を縮小してロシアへの圧力を弱めて、プーチン大統領にも停戦のテーブルに着くように促すのではないか。
ロシアとウクライナは一時的には「停戦合意」に達するかもしれない。ただ通常、こうした停戦合意はあっという間に破られる。過去の歴史から学べば、拡張主義的な国家は、領土を獲得しても満足せず、さらに領土を欲する傾向がある。「少量の前菜を食べたことで主菜への食欲が増す」ようなものだ。ロシア側は何かと理由をつけて「停戦合意」を破棄し、最終的にはウクライナ全域を占領するまで戦争を続けていく可能性も排除できない。いずれも「もし…
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週刊エコノミスト
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