安全飛行を国が認める「耐空証明」に7年かかるeVTOL 千田泰弘
有料記事
構造が簡単な「空飛ぶクルマ」といえども、従来の航空機と同じ安全審査が必要となる。実用化にはもう少し時間がかかりそうだ。
>>特集「空飛ぶクルマ」はこちら
航空機の国際安全基準は1944年にアメリカのシカゴで開催された民間航空に関する国際会議で採択されたシカゴ条約で定められ、日本はサンフランシスコ講和条約締結により航空機産業が解禁となった2年後の53年にこれを批准した。現在は193カ国がこの条約に加盟しており、古い歴史と世界的な広がりを持つ国際基準である。各国の航空法はこの基準で定められており、日本の航空法第1条にもシカゴ条約を順守することが明記されている。
シカゴ条約の第8付属書が「耐空証明」に係る条項で、強度、構造、性能、騒音などが規定されている。なお、シカゴ条約は民間航空機だけに適用される基準であり軍用機には適用されないし、ドローンに関する規定はまだできていない。
国が安全性を審査・認定
耐空証明とは安全に空を飛べる性能であること(耐空性)を国が審査し認定することをいう。航空機が運用される環境条件において、部品やシステムの信頼性が十分に高く、仮に故障した場合でも可能な限り重大事故にならない機能や手段が具備されていることをデータや実績等に基づき検証し、最終的に製造された機体の現状を確認したうえで国が発行する証明である。日本の航空法第11条には「航空機は、有効な耐空証明を受けているものでなければ、航空の用に供してはならない。但し、試験飛行等を行うため国土交通大臣の許可を受けた場合は、この限りでない」と定めている。
耐空性の目標は重大事故発生確率が10億飛行時間に1回以下といわれており、審査段階で数値的にこれを確認することはほぼ不可能である。あるシンポジウムで米国の審査官が耐空証明とは何かと問われた際「私を安心させてもらうことが全てと言うほかはありません」と表明したことは審査の作業には図面やデータだけではなく経験も重要な要素として加味されることを端的に表明している。
シカゴ条約の規定するところは何かを一言で表明すれば「SHELL」であるとの有名な例えがある。S:ソフトウエア(運用方法、手順)、H:ハードウエア、E:気象などの環境条件、L:Liveware(パイロット)、L:Liveware(地上での整備、管理等に係る耐空性の維持に係る人間要素)──で、耐空性の審査は単なる技術だけではなく経験などの人間要素が大いに関係することが表現されている。
耐空性審査の大部分は型式(かたしき)審査ともいわれる技術の確認工程であり、設計、製造、維持等に係る耐空性をデータや実績に基づき審査する。最終的に製造された実機による現状確認が済めば耐空証明が発行される。シカゴ条約では型式証明は耐空性を実効的に証明するドキュメント類と定義されている。型式証明があれば量産時に耐空性審査を繰り返さなくても済むほか、修理・改造時などにも活用される。なお耐空証明の有効期限は1年であり、修理、改造の都度、耐空証明が必要である。
米ベンチャーも審査で苦戦
耐空性審査の具体例は米eVTOL(電動垂直離着…
残り1689文字(全文2989文字)
週刊エコノミスト
週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める