教養・歴史書評

三井文庫に勤める著者が三井両替商の実態を活写した渾身の一冊 今谷明

 近世の大坂は、北陸と西日本の米穀が集まり、その代金である貨幣も集中して“天下の台所”と称された一大経済都市であった。米市場が立った堂島では、世界に先駆けて空売りや先物売買が行われていた。

 したがって財閥の前身にあたる呉服屋や両替商、大名貸しなどの豪商が続々出てきたのもうなずける。

 中世は北陸や湖東(琵琶湖の東)の米は叡山(えいざん)(比叡山)の東麓(とうろく)である坂本に集まり、それゆえに米市は坂本に立てられたが、実権を握っていたのは山僧(延暦寺の有力僧)であった。したがって固有の階層として「大商人」が登場したのは、やはり江戸時代ということになる。

 萬代悠(まんだいゆう)著『三井大坂両替店(みついおおさかりょうがえだな) 銀行業の先駆け、その技術と挑戦』(中公新書、1100円)は、三井家の史料を収蔵する三井文庫に勤務する著者が、銀行の前身としての三井両替商の実態を、渾身(こんしん)の力を傾けて一冊にまとめあげた力作である。

 17世紀の人、三井高利は、商業の町として知られる伊勢松坂の出身、延宝元年(1673年)に京都蛸薬師(たこやくし)に呉服仕入れ店を、江戸の本町に呉服小売店を開業し、“店頭販売”と“現金掛け値なし”の商法で成功し、その後、江戸、京都、大坂の三都に両替店を開いた。本書の本題、三井の金融業への展開である。

 天領、藩領問わず、膨大な米穀が大坂に集まるが、大名の消費は主と…

残り426文字(全文1026文字)

週刊エコノミスト

週刊エコノミストオンラインは、月額制の有料会員向けサービスです。
有料会員になると、続きをお読みいただけます。

・会員限定の有料記事が読み放題
・1989年からの誌面掲載記事検索
・デジタル紙面で直近2カ月分のバックナンバーが読める

通常価格 月額2,040円(税込)

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

5月14日・21日合併号

ストップ!人口半減16 「自立持続可能」は全国65自治体 個性伸ばす「開成町」「忍野村」■荒木涼子/村田晋一郎19 地方の活路 カギは「多極集住」と高品質観光業 「よそ者・若者・ばか者」を生かせ■冨山和彦20 「人口減」のウソを斬る 地方消失の真因は若年女性の流出■天野馨南子25 労働力不足 203 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事