日経平均を上げたのは海外で稼ぐ企業 家計の取り分は増えないまま 山口範大
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海外に活路を見いだす企業は、製造業だけでなく非製造業にも広がりを見せている。円安はそうした企業に追い風でも家計には厳しい。
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日経平均株価が一時、4万円を超えた一方で、家計は景気のよさを実感できないのはなぜか。株価には企業業績を反映して動く面と投資家の期待感を反映して動く面があるが、ここではそのうち企業業績と、家計の景況感の乖離(かいり)という観点から考察する。
非製造業の海外進出
まず挙げられるのは日本企業、特に大手企業の収益源は、国内市場とは限らないという点である。
1990年代以降、多くの日本企業は海外での企業活動を加速させてきた。海外進出の目的は、当初の生産拠点の移管から、現地市場の獲得へと次第に変化している。国際協力銀行の調査によると、2000年代初頭に20%台であった日本製造業の海外売上高比率は、足元で40%近い。同調査は中小企業も対象に含むが、日経平均を構成するような大手企業ではさらに高い傾向がある。
したがって、日本企業の業績は国内景気以外の要因でも変動する。例えば足元で世界的に急回復している半導体関連製品の需要や、堅調な北米の自動車販売は、日本企業の業績には間違いなくプラスに働いているが、それが国内のマクロ的な雇用・賃金増に波及していないことから、必ずしも消費者の景気実感を押し上げるには至っていない。
また、海外収益が企業収益全体を支える構図は、製造業に限らない。非製造業の海外進出は10年代以降急速に進展しており、今や非製造業の対外直接投資の残高は製造業を大きく上回る。業種問わず、海外景気の動向は日本企業の収益に大きな影響を与える。
21年末に1ドル=115円であったドル・円為替相場は、その後10カ月間で150円まで円安に振れた。大きな為替変動は、資源価格の上昇も相まって経済活動にさまざまな影響をもたらした。
まず、企業の海外事業においては、円安で現地通貨建て収益の円換算額が膨らむため、業種問わず円安が収益にプラスに働くが、業種によって影響が異なる面もある。輸出企業にとっては、円安局面で海外現地通貨建て価格を引き下げて販売数量を増やすか、あるいは現地通貨建て価格を据え置いて円換算時の利益率を高めるかは企業の戦略によるが、いずれにせよ円建て収益という点で円安はプラスだ。
一方、海外から原材料や製品を輸入して国内で販売する輸入企業にとっては、円安はコスト増となり、直接的には収益にマイナスの影響を与える。
ただ足元では、内需型業種の代表格である食品や小売りでも景況感が底堅い。背景には、コロナ禍からの需要回復局面という後押しもあり、少なくとも部分的には企業がコスト増分を製品価格に転嫁することに成功したことが大きい。日銀短観で企業の価格判断DIを見ると、足元の物価上昇局面ではコスト=投入価格の大幅な上昇に対応し…
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週刊エコノミスト
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