日独逆転《私はこう見る》ドイツに学ぶべきは価格支配力と中小企業の国際競争力 田中理
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2023年の日本のドル建て名目GDP(国内総生産)はドイツに抜かれ、世界第4位に転落した。日独GDPの逆転をもたらしたのは、大幅な円安進行とインフレ格差だ。
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過去3年間の両国のドル建てGDPの累積変化を比較すると、日本が15%を超える大幅な落ち込みを記録したのに対し、ドイツが15%近くも増加した(図1)。
これを成長率、物価、為替の各要因に分解すると、日独ともに成長率と物価が押し上げに、為替が押し下げに働いた点は共通する。両国のパフォーマンスの差は、ドイツのインフレ率が日本の約4倍のペースで増加したことと、日本の為替レートがドイツの約5倍のペースで減価したことに起因する。実質GDP成長率はドイツが日本をわずかに上回ったが、ほとんど差がない。
つまり、今回の日独GDP逆転は歴史的な高インフレと歴史的な円安が重なったことによるもので、両国の国力逆転を意味するものではないと論じることもできるだろう。過度な円安が修正されれば、近い将来に日本がドイツを再逆転する可能性も十分にある。
ただ、円安自体が日本の国力低下を反映している面がある点は見逃せない。また、日本が長期停滞に苦しむ間、ドイツは日本を上回る成長を積み重ね、両国の差は着実に縮まっていた。10年以降、ドイツの名目GDPは日本の約3倍のペースで増加した。インフレ率の違いを考慮し、実質GDPで比較しても、ドイツは日本の約2倍のペースで成長を続けてきた。歴史的なインフレや円安といった事象が重ならなかったとしても、逆転は時間の問題だったといえる。
人口が日本の約3分の2のドイツに逆転された事実は重い。このことは、日本の1人当たりGDPや労働生産性がドイツの約3分の2に低下したことを意味するからだ。内閣府は最近、人口減少下で生産性が現状程度にとどまれば、2060年の日本の1人当たりGDPが主要先進国で最低水準に転落するとの試算を発表した。
ドイツに迫る「日本化」
日本とドイツは勤勉な国民性、ものづくりの伝統、輸出立国といった共通点を持つ。ドイツはかつて、東西ドイツ統一後の高失業や競争力低下に苦しみ、「欧州の病人」と呼ばれた時代があった。そこから見事な復活を果たし、日本を逆転したドイツの経験や取り組みから何を学ぶかは、日本の政策関係者や企業経営者にとって大きな関心事だろう。
その際に引き合いに出されることが多いのが、シュレーダー政権(1998〜2005年)時代の労働市場改革(ハルツ改革)だ。ところが、ドイツの論壇ではハルツ改革以降、目立った構造改革が行われていないことを問題視する声が少なくない。産業の新陳代謝に乏しく、デジタル化への対応が遅れ、インフラの老朽化、投資不足などの課題が指摘されている。
また、移民流入などが労働力不足をある程度補っているものの、ドイツでも高齢化が進んでい…
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週刊エコノミスト
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